2016年3月12日更新

【獣医師監修】犬の日和見感染症~原因・症状と対策

ペット生活 獣医師



獣医師

ペット生活編集部の獣医師アカウント。ペットとの暮らしを豊かにするお役立ち情報をお届けします。

 

犬の日和見感染症とは、健康な犬であれば感染しても病気を引き起こさない病原体が免疫の低下した犬に感染することによって起こる感染症です。犬の体には多種多様な常在菌がいますが、普段は無害で、犬に病気を引き起こすことはありません。しかし、何らかの原因によって犬の免疫力が低下すると、常在菌のバランスをコントロールできなくなってしまい、日和見感染症を引き起こします。

犬に日和見感染症を起こす病原体は様々です。今回はそのうち10種類について取り上げます。

 

原因

犬の日和見感染症は、何らかの原因で免疫力が低下することで、本来犬に害を及ぼさない常在菌などに感染、発症することで起こります。免疫力が低下する原因は、白血病、糖尿病といった疾患や、抗がん剤の使用などが考えられます。

日和見感染症を起こす病原体は、ウイルス、細菌、真菌(カビ)、寄生虫、緑藻類など多岐に渡ります。それぞれ見ていきましょう。

ウイルス:ヘルペスウイルス

ヘルペスウイルス感染症を引き起こします。ヘルペスウイルスに感染している犬の分泌物に接触したり、交尾したりすることで感染します。ヘルペスウイルスは治療しても完全に死滅させることはできず、生涯に渡って潜伏感染し、免疫力が弱ったときに症状が出ます。

細菌:マイコプラズマ

マイコプラズマ感染症を引き起こします。喉や泌尿器、生殖器の常在菌で、ケンネルコフの原因菌の一つですが、単体での病原性は高くありません。

細菌:黄色ブドウ球菌

膿皮症を引き起こします。皮膚の常在菌で、免疫力を低下させる病気や、アトピー性皮膚炎など他の皮膚炎にかかり、皮膚のバリア機能が落ちることで感染します。また、皮膚のケガから体内に侵入して増殖することもあります。

細菌:アクチノミセス

アクチノミセス症を引き起こします。口腔内や生殖器の常在菌で、唾液などとともに飲み込んだアクチノミセスが気道に入って、あるいは皮膚や粘膜の傷口から体内に侵入して感染します。

真菌:カンジダ

カンジダ症を引き起こします。皮膚や粘膜の常在菌で、感染し増殖するとすると、皮膚、角膜、外耳道、消化管、泌尿器、生殖器など、あらゆる場所に症状が出る可能性があります。他の病気によって免疫力が下がったときや、ステロイドや長期にわたる抗生物質の使用によって、カンジダが異常に増殖することがあります。

真菌:アスペルギルス

アスペルギルス症を引き起こします。空気中に浮遊しており、それを吸い込むことで感染します。そのため、症状は副鼻腔や気道、肺といった呼吸器によく現れます。その他、ケガや鼻炎などがきっかけとなって発症することもあります。コリーやレトリーバーといった長頭種で発症しやすい傾向にあります。

真菌:マラセチア

マラセチア症を引き起こします。皮膚や粘膜の常在菌で、アトピー性皮膚炎や脂漏性皮膚炎など、他の皮膚病で皮膚のバリア機能が落ちたときに増殖します。また、外耳炎を発症したときにもマラセチア症が起こりやすくなります。

マラセチア症の皮膚症状は、首、耳、わきの下、下腹部によく見られます。シー・ズーやブルドッグ、レトリーバーで発症しやすい傾向にあります。

真菌:クリプトコッカス

クリプトコッカス症を引き起こします。空気中や土壌中など環境中に常在しており、それを吸い込むことで感染します。ただし免疫力に問題がなければ害を及ぼさないため、そのまま犬の鼻腔に存在し続けます。

寄生虫(原虫):トキソプラズマ

トキソプラズマ症を引き起こします。トキソプラズマが含まれている生の豚肉を食べたり、感染している猫の便から経口感染したりします。

犬はトキソプラズマの本来の宿主ではないため、犬の体内で増殖したのち、臓器や筋肉内などに潜伏感染し、免疫力が落ちたときに犬に様々な症状を引き起こします。

緑藻類:プロトテカ

プロトテカ症を引き起こします。土壌中、下水を含む水辺など自然環境中に広く分布しており、口などから体内に入り込んで、脳や消化器、目などに感染します。皮膚の傷から感染し、皮膚病を起こすこともあります。

症状

犬の日和見感染症の症状は、原因によって、軽度なものから重度のものまで様々です。

ウイルス:ヘルペスウイルス

ヘルペスウイルス感染症になると、風邪を思わせる呼吸器症状が現れます。まれに重症化して肺炎を起こすことがあります。

細菌:マイコプラズマ

マイコプラズマ感染症になると、呼吸器症状、尿路疾患、膣炎などの生殖器疾患、関節炎が引き起こされます。また、妊娠している場合、マイコプラズマが原因で流産することもあります。

細菌:黄色ブドウ球菌

膿皮症になると、はじめに赤い発疹が現れ、円状に拡大していきます。患部の毛が抜け、表皮がはがれてフケとなり、皮膚は赤黒く変色します。膿の詰まった膿庖ができることもあります。

かゆみが出る犬もいれば、まったく出ない犬もいます。膿皮症はお腹やわきの下、股によく見られます。真皮にまで細菌感染が広がった場合は重症化します。

細菌:アクチノミセス

アクチノミセス症になると、発熱、元気や食欲がなくなる、湿った咳をする、呼吸困難といった症状が見られます。化膿性の炎症を起こす細菌で、症状が進むと膿胸や骨髄炎を起こします。

真菌:カンジダ

カンジダ症になると、皮膚や爪、角膜、外耳道、消化管、尿道、膣、肛門など色々な場所で炎症が起こります。患部は赤くなり、膿庖ができたり、ただれたりすることもあります。

真菌:アスペルギルス

アスペルギルスが副鼻腔に感染した場合、どろどろとした黄色い膿性の鼻汁や、くしゃみ、鼻血が出るなど、鼻炎の症状を呈します。

肺に感染した場合は、咳と痰、時に血を吐くことがあります。

真菌:マラセチア

マラセチア症になると、皮膚がベタベタと脂っぽくなり、炎症を起こします。フケが多くなり、ニオイも強くなります。かゆみが出ることが多く、犬は患部を気にするしぐさをします。

真菌:クリプトコッカス

クリプトコッカス症になると、肺などの呼吸器、副鼻腔、目、皮膚などに炎症が起きます。クリプトコッカスを吸い込むことで感染することから、鼻炎の症状が現れやすく、くしゃみや鼻汁が見られたり、鼻筋が腫れたりします。また、痙攣やマヒ、歩けなくなるといった神経症状が出ることもあります。

寄生虫(原虫):トキソプラズマ

トキソプラズマ症になると、元気がなくなり、下痢、発熱、貧血、呼吸困難、筋肉痛といった症状が見られます。肺炎や脳炎を引き起こすこともあります。

緑藻類:プロトテカ

プロトテカ症になると、皮膚に脱毛やただれが見られたり、しこりができたりします。血便や嘔吐、体重の減少のほか、マヒや斜頸といった神経症状が現れる場合もあります。末期ではブドウ膜炎などの眼症状が現れ、網膜剥離により失明します。

 

対策

犬の日和見感染症の治療は、薬による内科療法と対症療法を組み合わせて行います。同時に、免疫力を下げる原因を取り除いたり、軽減したりすることも必要です。

ウイルス:ヘルペスウイルス

ヘルペスウイルスに対する抗ウイルス薬がないため、対症療法を行います。

細菌:マイコプラズマ

抗生物質を投与します。

細菌:黄色ブドウ球菌

膿皮症には、抗生物質の投与や、抗菌シャンプーによる洗浄を行います。真皮にまで細菌感染が及んでいる場合、治療は長期化します。

細菌:アクチノミセス

膿を排出し、抗生物質を投与します。治療は長期化します。

真菌:カンジダ

抗真菌薬を投与します。

真菌:アスペルギルス

抗真菌薬を投与します。肺に感染し、病巣を形成している場合、外科手術を行うこともあります。

真菌:マラセチア

抗真菌薬の投与や、抗菌シャンプーによる洗浄を行います。

真菌:クリプトコッカス

抗真菌薬の投与や対症療法を行います。

寄生虫(原虫):トキソプラズマ

駆虫薬の投与や対症療法を行います。

緑藻類:プロトテカ

抗真菌薬の投与や対症療法を行いますが、まだ明確な治療法が確立されていない病気でもあります。

日和見感染症を起こさせないために

犬の日和見感染症は、免疫力が著しく低下することで起こり、時に重篤な症状を引き起こすこともありまます。白血病などの末期症状として現れることがあるため、免疫力低下の原因となる病気を早期発見し、進行を食い止めることが大切です。

日和見感染症の原因となる病原体は、環境中にあふれています。犬の免疫力が低下している場合、病原体に感染しないよう、普段からケガなどに気をつけるようにしましょう。