2016年12月1日更新

【獣医師監修】猫の心室中隔欠損症~原因・症状と対策

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心臓には左心房、右心房、左心室、右心室と、計4つの部屋があり、それぞれ壁で仕切られています。猫の心室中隔欠損症は、4つの部屋のうち下2つにあたる左心室と右心室の間を仕切る壁に、生まれつき穴が開いている先天性の心疾患です。穴の大きさによってほとんど健康に影響が出ないこともあれば、少し運動するだけですぐに疲れてしまう、というような軽度な症状が出ることもあり、症状の出方は様々です。

猫の心室中隔欠損症の原因、症状、対策について取り上げます。

 

原因

心臓の左心室と右心室を隔てる心室中隔という壁に生まれつき穴が開いている病気です。穴が開く原因は遺伝性との見方もありますが、まだ明確になっていません。

ただ、ファロー四徴症という他の心疾患に起因して心室中隔欠損症になる場合があります。ファロー四徴症では、動脈幹円錐中隔という、胎児のときに元々1本の管だった大動脈と肺動脈を2本に分けるために発生する壁が、本来の位置より右にずれてしまいます。すると、動脈幹円錐中隔の延長線上に発生する心室中隔とずれが生じて、左心室と右心室の間に穴が開いてしまいます。

心室中隔欠損症の種類

心室中隔欠損症は穴の位置によって以下の3種類に分類されます。

  • 漏斗部欠損
  • 膜様部欠損
  • 筋性部欠損

漏斗部が最も心臓の中心部に近く、そのあと心臓の下に向かって膜様部、筋性部と続きます。漏斗部欠損は、肺動脈の入口にある肺動脈弁の近くに穴が開いている状態です。膜様部欠損は、心室中隔の上部で筋肉が薄い部分に穴が開いている状態で、猫の心室中隔欠損症ではこのタイプがよく見られます。筋性部欠損は心室中隔の下部で筋肉が厚い部分に穴が開いている状態です。

心室中隔に開いた穴を通じて、血液が圧の高い左心室から右心室へと流れ込み、猫の体に悪影響を及ぼします。

症状

心室中隔に開いた穴が小さければ、ほぼ無症状のこともあります。一方、穴が大きいと、以下のような症状が現れます。

  • 運動すると息切れしやすい
  • 疲れやすい
  • 咳が出る
  • 呼吸が速い

なぜこのような症状が現れるのか、心臓における血液の循環メカニズムをご説明します。

血液循環と心室中隔欠損症のメカニズム

血液は全身を巡り、右心房→右心室→肺動脈→肺で酸素交換→左心房→左心室→大動脈から全身に送られます。心室中隔に穴が開くことで、左心室から全身に送られるはずの血液が、一部隣り合った右心室に流れ込みます。

右心室に流れ込んだ想定外の血液は、再び肺動脈→肺→左心房→左心室という経路を辿るため、肺動脈、肺、左心房、左心室に過大な負荷がかかります。やがて左心室は全身に十分な血液を送り出せない状態になり(心不全)、通常より多く血液を送り出さなければならない肺動脈には、強い圧がかかるようになっていきます(肺高血圧症)。

多過ぎる血液は肺で滞ってうっ血し、その後血液から肺胞腔内に水分が滲み出す肺水腫が起こります。ただし、左心室から流れ込んだ血液はすぐに肺動脈から肺に送られるため、初期の段階では右心室に負荷はあまりかかりません。

このように、全身に十分な血液が行き渡りにくくなることで、息切れや疲れやすいといった症状が見られ、肺がうっ血することで咳が出やすくなります。肺うっ血が肺水腫に進行した場合は、肺での酸素交換がうまくできずに呼吸困難に陥ることもあります。また、子猫に症状が出ると発育不良になる場合もあります。

心室中隔欠損症が悪化すると…

心室中隔欠損症が悪化し、肺高血圧症が長く続くと、肺動脈に血液を送り出すポンプである右心室にかかる圧が高くなっていきます。左心室より右心室の圧のほうが高くなると、血液の流れが逆転して右心室から左心室に血液が流れ込むアイゼンメンジャー症候群になることもあります。こうなると、全身を巡ったあとで酸素の少ない右心室の血液の一部が、肺で酸素交換されないまま左心室から大動脈を経て全身に送り出されてしまい、チアノーゼを起こしたり、失神したりします。

心内膜炎の併発に注意

心室中隔欠損症など先天性の心疾患を持つ場合、心内膜炎に注意しなければなりません。心内膜炎は、何らかの原因で血液に侵入した細菌が、心臓内にいぼ状の塊を作る病気です。心室中隔欠損症では、左心室から右心室への血液の流れによって心臓内に傷がつきやすく、侵入した細菌がその傷に付着して増殖し、いぼを作って心臓を障害します。

心内膜炎でも心室中隔欠損症と同じような症状が出ますが、場合によっては、はがれ落ちたいぼの一部が血流に乗って移動し、どこかの血管を詰まらせる塞栓症が起きることもあります。塞栓症になると、猫だと後ろ足に向かう血管が詰まりやすく、突然後ろ足がマヒして冷たくなります。一刻を争う事態なので、すぐに動物病院で処置する必要があります。

 

対策

心室中隔の穴が小さい場合は経過観察を行います。穴が大きい場合は、人工心肺装置を使って心臓を一時的に止め、穴を縫合する外科手術を行います。肺動脈に専用のテープを巻いて血流を制限する肺動脈絞扼術(肺動脈バンディング術)を行うこともあります。ただし、穴を塞いでいないため、症状の緩和には役立ちますが、根治はできません。

アイゼンメンジャー症候群を発症した場合は、外科手術をすると寿命を縮めることになるため、利尿剤の投与など対症療法を中心に行います。また、心内膜炎を併発した場合は抗生物質を投与しつつ、対症療法を実施します。

心室中隔欠損症は先天性疾患のため、予防はできません。早期発見・早期治療し、運動制限するなど、心臓への負荷を軽減して悪化を防ぎましょう。

また、心内膜炎の予防も大切です。歯の治療時や他の手術時に細菌感染して心内膜炎を発症することもあるので、獣医師に持病の存在についてきちんと伝え、予防的に抗生物質を投与するなど対策を講じてもらいましょう。

「疲れやすい」は重要な異常のサインです

心室中隔欠損症の初期の症状は、疲れやすい、息切れするなどとてもありふれたもので、飼い主は見逃しがちです。ただ、猫が少し走っただけで疲れたり、息切れしたりするということは、健康で若く、適正体重の猫ならほとんどありません。猫の体内で何らかの異常が起こっている可能性が高いといえます。

呼吸困難やチアノーゼといった重い症状が出る前に、疲れやすいなど、猫の「ありふれているけれど、ずっと続いている症状」に気づいたら、動物病院に行って獣医師に相談しましょう。

 
 

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