犬の去勢・避妊手術の実際~飼い主さんが知っておくべき情報を詳しく解説【獣医師が解説】

犬を飼ったらやるべきことをいろいろありますが、その中でも大きなイベントが去勢手術・避妊手術です。

「去勢・避妊手術にはメリットがあるからやったほうがいい」とよく聞きますが、手術の手順やメリット・デメリットを詳しく知りたい飼い主さんは多いのではないでしょうか?

そこで今回は、去勢・避妊手術に関して詳しく解説いたします。

手術前の注意点から手術の方法、術後の注意点など手術の実際のところだけでなく、そのメリット・デメリットや動物病院の選び方や費用などまで記事にしておりますので、ぜひ参考にしてみて下さいね!

犬の去勢・避妊手術とは?

犬の去勢・避妊手術とは、犬の生殖器を切除し、生殖能力を無くすための不妊手術です。

去勢手術はオスの不妊手術をさします。去勢手術では、オス犬の左右の睾丸を切除して取り出します。

避妊手術はメスの不妊手術をさします。避妊手術の方法は、左右の卵巣を摘出する卵巣摘出術と、左右の卵巣および子宮を摘出する子宮卵巣全摘出術の2通りの方法があります。

どちらの方法でもお腹を開ける開腹手術となりますので、去勢手術と比べると手術の時間は長く、負担も少し大きくなりまます。

犬の去勢手術の方法

犬の去勢手術は以下のような方法で行います。手術時間は一般的には10~20分程度です。

手術の手順

  1. 全身麻酔をかける(全身麻酔の方法は注射やガス麻酔など動物病院によって違います)
  2. 手術部位の毛刈り・消毒を行う
  3. 陰嚢(睾丸の入っている袋、いわゆる玉袋)の少し上(陰茎の基部)をメスで切開する
    切開する大きさは、睾丸の大きさによって5㎜~数㎝になります。
  4. 皮膚の切開部位から片側の睾丸を引っ張り出す
  5. 睾丸につながる血管と精管を糸で縛り、切断する(糸を使わない血管シーリングという方法で切断する病院もあります)
  6. 睾丸を包んでいた膜(総漿膜)を縫う
  7. もう片方の睾丸も同じように切除する(4~6を繰り返す)
  8. 皮膚の下(皮下組織)を糸で縫う(体の中で溶ける吸収糸と呼ばれる糸で縫うのが一般的です)
  9. 皮膚を縫合する(後日抜糸が必要になるケースが多いです)

停留睾丸の手術

犬では、産まれた当初は睾丸はお腹の中に存在し、生後2カ月程度で陰嚢の中に降りて来る「精巣下降」が起こります。

しかし、精巣下降が正常に起こらないと、精巣が中途半端な位置で止まってしまう「皮下陰睾」や、お腹の中にとどまってしまう「腹腔内陰睾」などの停留精巣なってしまうことがあります。

皮下陰睾の場合には、皮膚の切開の位置が少しずれ、2カ所の切開になることがありますが、その他の手順は正常な睾丸と同じような手術になります。

一方、腹腔内陰睾の場合には、次で説明する避妊手術と同じように開腹手術が必要になります。

去勢手術の術後

犬の去勢手術は、日帰り手術で行っている病院が多いです。

動物病院によっては、手術当時は入院をし翌日退院とする病院があります。

術後は、1~2週後に抜糸をすることが一般的ですが、抜糸の必要のない埋没縫合を行う病院もあります。

術後しばらくは傷口を舐めないように、エリザベスカラーや術後服が必要になることが多いです。

犬の避妊手術の方法

犬の避妊手術は以下のような手順で行います。避妊手術には30分程度の手術時間が必要になります。

犬の避妊手術の手順

  1. 全身麻酔をかける
  2. お腹の広い範囲の毛刈りをし、消毒する
  3. 上腹部~中腹部にかけてメスで皮膚を切開する
    切開する広さは、3~15㎝くらいです(小型犬では小さく、大型犬では大きくなります)
  4. 腹筋の中央部分を手術用ハサミで切開し、開腹する
  5. 子宮釣り出し鈎と呼ばれる器具で、子宮と卵巣をお腹の外に釣り出す
  6. 片方の卵巣に入る動脈や静脈を糸で縛り、切断する(去勢手術と同様シーリングで切断することもあります)
  7. もう片方の卵巣の血管も同様に切断する
  8. 子宮の根元の部分(子宮頸部)で、子宮と血管を糸で縛り、切断する
  9. 子宮と卵巣を取り出す
  10. 腹筋を糸で縫合する(通常、吸収糸を使う)
  11. 皮下組織を縫合する(通常、吸収糸を使う)
  12. 皮膚を縫合する

避妊手術の術後

犬の避妊手術は、去勢手術と違い手術当日はそのまま入院し、翌日退院としている病院が多いです。

一部では日帰り手術で行っている病院もあります。

術後は1~2週間で抜糸を行うことが多いですが、抜糸の必要のない埋没縫合を実施している動物病院もあります。

傷口を気にして傷をなめてしまう場合には、術後服やエリザベスカラーが必要になります。

犬の去勢・避妊手術の費用

動物病院での診療は、人の病院と違いすべて自由診療ですので、手術にかかる費用は病院によって大きく異なります。

日本獣医師会の調査によると、犬の去勢手術は約1万8千円、避妊手術は約2万7千円が平均となっていますが、手術代は動物病院によって大きく変わってきます。

また手術費用には、術前血液検査代や内服代などが含まれている場合もあれば、別途必要になることもあります。

手術代金を確認するときには、総額いくらかかるのか(税込み・税抜きも含めて)聞いておくといいでしょう。

手術費用に差がある理由

以上のように去勢・避妊手術の値段の平均値はありますが、その幅は非常に大きく、1万円近くで手術できる病院もあれば、総額5万円以上かかる病院もあります。

値段設定は動物病院で自由に行うことができ、その価格差は以下のような必要経費の違いが一つの理由です。

  • 設備費:手術室や麻酔器、生体モニター、人工呼吸器、血管シーリングなどの設備の有無や機器のグレードの違い
  • 器具代:手術に使う器具や糸の種類などの違い
  • 人件費:助手や麻酔担当医の有無などによる人件費の違い
  • 検査代:術前検査の種類(血液検査、凝固系検査、レントゲン検査など)やその有無
  • その他:入院の有無、内服の有無、術後服の有無、縫合方法、術後ケアなどの違い

手術代が安い病院は危険?

以上のように、手術代金にはさまざまな要因が影響し、一概に「安い病院が良心的」というわけではなく、安ければ安いほどいいというわけではありません。

もちろん、「安いから危険」というわけでも「費用が高いから安心」というわけでもなく、経営努力によってコストを抑えて安全な手術を行っている動物病院もあります。

去勢・避妊手術は全身麻酔をかける手術であり、絶対に安全であるという手術ではありません。

そのため、手術代金だけで動物病院を選ぶのではなく、信頼できる人の口コミを聞いたり(インターネット上の口コミはあてにならないこともあります)、実際に動物病院を受診して獣医師の話をしっかり聞いたりして、信頼してお任せできる動物病院にお願いすることが大切です。

犬の去勢・避妊手術のメリット・デメリット

犬の去勢・避妊手術にはいくつかのメリットとデメリットがあります。

手術を考える際には、メリット・デメリットをしっかり理解してやってもらうようにしてください。

犬の去勢・避妊手術共通のメリット・デメリット

まずは、犬の去勢・避妊手術に共通するメリット・デメリットについてお話しいたします。

犬の去勢・避妊手術共通のメリット

犬の去勢・避妊手術の共通のメリットは以下の通りです。

寿命が伸びる

去勢・避妊手術をした犬では、していない犬に比べ寿命が長いというデータが出ています。

以下にお話しするように、去勢・避妊手術をすることでいくつかの病気が予防できますので、そのおかげで寿命が伸びるものと考えられます。

望まない妊娠を防げる

多頭飼いの家では、去勢・避妊手術をしていないオスとメスの犬を一緒に飼っていれば、かなりの高確率で妊娠します。

兄弟姉妹で妊娠すれば、遺伝性疾患のリスクが高くなってしまいますし、妊娠・出産は母体に大きな負担をかけることがあります。

また、犬の散歩をしていると、生理中(発情出血中)のメス犬には雄犬が異常に興味を示し近づいてくることが多いです。

思わぬ事故(妊娠・喧嘩・怪我など)の防止のためにも去勢・避妊手術は有効となります。

発情ストレスの解消

オスは基本的に若いうちは常に、メスは発情中に性欲が高い状態となります。

その性欲が満たされないと、犬はストレスが溜まってしまいます。

睾丸や卵巣を取ることで性欲がなくなり、発情ストレスから解放されるのも、去勢・避妊手術をする大きなメリットです。

犬の去勢・避妊手術共通のデメリット

メリットがある一方、犬の去勢・避妊手術にはデメリットもあります。

麻酔・手術のリスク

去勢・避妊手術には必ず全身麻酔が必要になります。

動物病院で使う犬の麻酔は、安全性はかなり高くなってきてはいるものの、全身麻酔の事故は0%になることはありません。

麻酔による死亡事故以外にも、術後の腎不全や呼吸不全などの可能性もあります。

また、まれではありますが、特異体質による出血や傷口の癒合不全などの手術トラブルの報告もあります。

全身麻酔や手術のリスクに関しては、動物病院でしっかり説明を受けてから手術を決めるようにしましょう。

肥満になりやすくなる

去勢・避妊手術をすると、肥満になりやすくなります。その原因は

  • 去勢・避妊手術をすることで、体の中の性的な活動が無くなり、基礎代謝が落ちる
  • 性欲によるストレスが無くなり、食欲が強くなる

だと考えられています。

去勢・避妊手術後は、フードをたくさん与えすぎないようにし、場合によってはカロリーの少ないフードに変更してあげた方がいいかもしれません。

大型犬では関節疾患のリスクが増える

大型犬の場合には、1歳未満の若い犬で去勢・避妊手術をすると、股関節形成不全などの関節疾患のリスクががると言われています。

現在のところ、意見は分かれていますが、大型犬の場合には1歳を超えてから手術をした方がいいと考えれます。

犬の去勢手術のメリット・デメリット

次に、犬の去勢手術のメリット・デメリットについてみておきましょう。

犬の去勢手術のメリット

犬の去勢手術には以下のようなメリットがあります。

各種病気の予防

去勢手術によって、以下のような病気を予防することができます。

  • 前立腺肥大・前立腺炎
  • 睾丸腫瘍
  • 会陰ヘルニア
  • 肛門周囲腺腫など
性格の温厚化

去勢手術をすると、男性ホルモン(テストステロン)が減少します。

テストステロンは犬の攻撃性に関与する物質であり、去勢手術をしてテストステロンが減少すると性格が穏やかになることが多いです。

やんちゃすぎる犬の場合も、去勢手術をすることで少し落ち着くことも多いです。

マーキングの防止

オス犬では、マーキングによって足を挙げて尿をすることも多いです。

外で尿をする場合にはそれほど問題になりませんが、家の中でする場合には、トイレからはみ出てしまう原因ともなります。

癖付いてしまうと手術をしてもなかなか治らないですが、若いうちに去勢手術をすることで、マーキングを防止することも可能です。

犬の去勢手術のデメリット

犬の去勢手術のデメリットは、去勢・避妊手術共通のデメリットと同じになります。上記を参考にしてください。

犬の避妊手術のメリット・デメリット

次に、犬の避妊手術のメリット・デメリットを解説します。

犬の避妊手術のメリット

犬の避妊手術には以下のようなメリットがあります。

各種病気の予防

避妊手術をすることで以下のような病気を予防することができます。

  • 乳腺腫瘍
  • 子宮蓄膿症
  • 卵巣腫瘍
  • 膣腫瘍など
発情のわずらわしさの解消

犬は半年に1回、2週間程度の発情出血があることが一般的です。

その間は陰部から血が出ますので、マナーパンツなどを履かないと家の中が血で汚れてしまいます。

手術をすると発情出血もなくなりますので、そうしたわずらわしさが解消されます。

犬の避妊手術のデメリット

犬の避妊手術には以下のようなデメリットがあります。去勢手術と共通のデメリットも併せて確認しておいてくださいね。

尿漏れのリスク

特に大型犬では、高齢になると避妊手術をした犬ではホルモン性の尿失禁の割合が増えると言われています。

尿失禁が起きてしまう割合は多くはないですが、避妊手術のデメリットとして頭に入れておく方がいいでしょう。

小型犬・大型犬によって違う去勢・避妊手術の適期

去勢・避妊手術をいつやったらいいのかは、犬の大きさによって違ってきます。

小型~中型犬は生後6か月~1歳

小型犬や中型犬では、生後半年以降の手術がすすめられています。

乳腺腫瘍の予防効果や問題行動の改善効果などを考えると、1歳までには手術をしておいた方がいいでしょう。

大型犬は1歳くらいで

去勢・避妊手術のデメリットでお話しした通り、大型犬ではあまり早い時期に去勢・避妊手術を行うと、関節の成長に悪影響を及ぼすことがあります。

一方で高齢になり過ぎると、予防効果が落ちてしまう病気があったり麻酔のリスクが高くなりますので、大型犬では1歳くらいで手術をしてもらうことをおすすめいたします。

犬の去勢・避妊手術の前の注意点

犬の去勢・避妊手術の前には以下の点に注意しておきましょう。

余裕を持って予約を取る

去勢・避妊手術はほとんどの動物病院で予約制になっております。

直前に予約を取ろうと思っても、すでに手術が埋まってしまっている場合には取れないこともあります。

愛犬の去勢・避妊手術を考えている場合には、少し余裕を持って(数週間から1か月程度前)に予約を取っておくことをおすすめします。

また、多くの病院では院内感染防止のために手術の予約にはワクチン接種が必要になっています。

直前に予約を使用としてワクチンが必要などとならないよう、問合せだけでも早めにしておきましょう。

トリミングを済ませておく

術後は傷口の保護のため、数週間の間トリミングに行くことができません。トリミングが必要な犬は手術前に済ませておくといいでしょう。

生理が来てしまったら必ず動物病院へ連絡を

メス犬では、生理(発情出血)中やその後しばらくの間は、ホルモンの関係で出血が非常に多くなるため、手術ができないこともあります。

手術を予約していても生理が来てしまったら手術が延期になることがありますので、生理出血が見つかった場合には必ず動物病院へ連絡するようにしましょう。

手術前日~当日は絶食水や持ち物などの指示を守る

去勢・避妊手術の前には、全身麻酔をかけるための絶食水が必要になります。

手術直前に食べたり飲んだりすると、麻酔事故のリスクが増大し、手術を中止差ざるを得なくなります。

必ず手術を受ける動物病院に手術前の絶食水の有無やその時間を確認し、その指示通りにするようにしましょう。

また、手術当日には手術承諾書(同意書)や手術の内金などが必要になることもあります。

匂いの付いたタオルを持参すると入院中に安心できる犬も多いです。

当日に必要なものや、タオルなど持って行ってもいいかなど、当日持参するものも確認しておきましょう。

犬の去勢・避妊手術の後の注意点

去勢・避妊手術が終わった後には以下の点に注意して生活させましょう。

注意点を必ず確認

術後の注意点は、麻酔の覚めや手術の方法などによって違ってきます。

ご飯やお水を与えてもいいかどうか、散歩は大丈夫か、傷口の消毒や内服薬が必要かなどは病院によって決まっていますので、お迎えの際に必ず術後の注意点を確認し、それを守るようにしてください。

術後はできるだけ安静に

犬はなかなか安静にすることは難しいですが、術後はできるだけ安静にし、無理をさせないようにしてください。

普通の生活であれば問題ないケースは多いですが、術後に激しい運動などをすると、出血や傷の離開などのリスクが上がってしまうことがあります。

傷口を舐めさせない

去勢・避妊手術後のトラブルで最も多いのが、傷口を舐めてしまうことです。

舐めてしまって傷口が化膿したり、糸を噛みちぎってしまって傷が開いてしまうということもあります。

そうしたトラブルを防ぐためにも、事前にエリザベスカラーや術後服などを使って傷を舐めないようにしておく方が安心ですね。

再診日を守る

手術後には、基本的に傷口のチェックや抜糸などの再診が1~2回必要になります。

早すぎても遅すぎても問題になることがありますので、再診日を守って受診するようにしましょう。

肥満の対策を立てる

ご説明した通り、去勢・避妊手術後には体重が増えやすくなります。

基本的にはフードを変える必要はありませんが、術後に体重が増える傾向がある場合には、食餌量を減らすか、フードの変更が必要になります。

体重が増える傾向にあれば、「去勢・避妊手術後用」のフードや低カロリーのフードを与えてあげることがおすすめです。

ご飯の量になかなか満足できない場合には、満腹感を感じさせてあげられるダイエット用のご飯を与えてあげるといいでしょう。

まとめ

犬の去勢・避妊手術は妊娠予防だけでなく、病気の予防や長生きのためにも大きなメリットがある手術であり、獣医師の多くは若いうちの去勢・避妊手術をおすすめしています。

ただし、去勢・避妊手術にはメリットだけでなく、デメリットやリスクもあり、それらを飼い主さんがしっかり理解したうえで手術を選択する必要があります。

手術前後の注意点や動物病院の選び方を含め、今回の記事がみなさまの愛犬が健康に長生きできる手助けになれば幸いです。

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ABOUTこの記事をかいた人

後藤大介

岐阜大学農学部・獣医学科(現応用生物科学部・共同獣医学科 ) 卒業。大阪・北海道の動物病院に勤務し、2018年、岐阜市にアイビーペットクリニックを開業。生まれ育った地元で、ペットと家族の幸せのためのお手伝いをしたいと考えています。病気の治療だけでなく、ペットの健康のための情報発信や、地域の飼い主さん同士が交流できるような動物病院を目指しています。