犬の下痢は病院へ行くべき?そのチェックポイントと下痢へのNGな対応とは【獣医師が解説】

犬に比較的多い症状である下痢。

下痢は、単なる消化不良など一過性の症状であることもありますが、さまざまな病気の症状の一つとして出て来ることもあります。

また、すぐにお腹が緩くなる下痢がちな犬がいる一方、産まれてから一度も下痢をしたことがないというお腹が強い犬もいます。

犬は体の不調を訴えることができないため、下痢は犬の不調のサインとして非常に重要なものです。

愛犬が下痢をした時に正しい対処ができるよう、犬の下痢についてしっかり勉強してみましょう。

犬の便はなぜ下痢になる?

まずは、下痢がなぜ起こるのか、そのメカニズムを見てみましょう。

犬が食べたフードは、胃の中に入り、腸に流れながら消化されていきます。

その段階では、まだ水分の多い形のない便(食渣)です。

便が大腸を通過する際に大腸の粘膜から便の水分が吸収され、形ができて硬くなり、通常の便が作られます。

以上のような便を作る過程のどこかに異常があり便の中の水分が多くなることが、下痢が起こるメカニズムです。

下痢は、便を作る過程のどこに異常があるのかによって大きく3つのタイプに分かれます。

浸透圧性下痢

大腸の粘膜から水分を吸収するときに、便の浸透圧(水分を保持する力)が高すぎると、便から粘膜に水分を移動させることが難しくなります。

便の浸透圧が高くなる性で起こる下痢が浸透圧性下痢です。

便の浸透圧は、便の中に未消化な食渣が増えると高くなります。

そのため、浸透圧性下痢は消化不良によって起こることが多く、消化に悪い物を食べたときや、大食いをした時などによく見られる下痢です。

また、牛乳を分解できない「乳糖不耐性」のある犬でも牛乳を飲んで浸透圧性下痢が起こります。

分泌性下痢

腸の粘膜から腸液が過剰に分泌されることで起こる下痢が分泌性下痢です。

大腸から水分を吸収する能力を超える腸液の分泌があると、便の中の水分が増えて下痢を起こします。

重度の腸炎や細菌などによる食中毒では、分泌性下痢が多く発生します。

蠕動(ぜんどう)運動性下痢

腸の中を食べ物が通過する速度が速くなりすぎることで、水分吸収が間に合わずに出てしまうのが蠕動運動性下痢です。

人のストレスによる腹痛や下痢の原因となる「過敏性腸症候群」は蠕動運動性下痢の代表であり、犬でもストレスがかかると蠕動運動が亢進して下痢を起こすことがあります。

犬の下痢の原因は?

犬の下痢の原因はかなり幅広く、胃腸自体の異常だけでなく、胃腸以外の病気からも下痢が起こることがあります。

胃腸に原因がある下痢

犬の下痢のうち、胃腸に原因がある代表的な病気は以下の通りです。

消化不良

フードの食べ過ぎや、人のご飯をたくさん食べたときには消化不良の下痢が出ることが多いです。

また、牛乳を分解する酵素を持っていない犬の場合は、牛乳を飲むと消化できずに下痢をすることもあります。

緊張・ストレス

緊張やストレスがあると、腸の運動に異常をきたし、下痢を起こすことがあります。

犬では、知らないお客さんがたくさん来た後や、ホテルに預けたときなどに緊張やストレスによる下痢がよく見られます。

食物アレルギー

食物アレルギーも下痢の大きな原因の一つとなります。

食物アレルギーは、ごく少量食べただけでも起こることがあり、おやつや人のご飯などを食べても食物アレルギーを起こすことがあるので注意してください。

最近では、血液検査によって食物アレルギーの診断が可能になってきています。

腸内環境の悪化

犬の胃腸の中には数え切れない種類と数の腸内細菌が住んでいます。

その腸内細菌の環境が変わってしまうと、消化吸収や腸の運動の異常を引き起こし下痢をしてしまうことがあります。

急なフードの変更やストレスなどが腸内環境の悪化の原因となります。

IBD(炎症性腸疾患)

IBDは犬の慢性下痢の原因として多い病気です。

中年以降の犬で慢性的な下痢や繰り返す下痢があり、徐々に痩せてきた場合には、IBDに注意が必要です。

胃腸の腫瘍

犬には、胃腸にできる腫瘍(がん)も多く、その症状の一つとして下痢が出て来ることもあります。

リンパ腫や腸腺癌などが胃腸にできることが多いです。胃腸の腫瘍では下痢以外に、血便や嘔吐、食欲不振などが同時に出て来ることも多いです。

内臓に原因がある下痢

胃腸以外の内臓の病気が、犬の下痢の原因となることも少なくありません。

膵外分泌不全

膵外分泌不全は、膵臓から出る消化酵素が不足することで、消化不良による下痢を起こす病気です。

比較的若いうちから下痢の症状が出て来ることが多く、食欲は旺盛なのに下痢で痩せて来るという症状が特徴的です。

また、膵液に含まれる消化酵素には、脂肪を分解するための消化酵素が多く含まれるため、膵外分泌不全の犬の便は未消化の脂肪を多く含み、色の薄い酸っぱいにおいの便になってきます。

膵炎

膵炎には慢性膵炎と急性膵炎がありますが、どちらも下痢やおう吐を引き起こします。

特に急性膵炎は死亡率の高い病気であり、犬に急な嘔吐や下痢があった場合には急性膵炎には要注意です。

前立腺炎

前立腺は大腸のすぐそばにあるため、前立腺が炎症を起こすと下痢や血便などの症状が出て来ることも多いです。

特に未去勢の中高齢のオスで血混じりの下痢をする場合には、前立腺炎の可能性も十分あります。

子宮蓄膿症

子宮に膿が溜まる子宮蓄膿症は、未避妊のメス犬に非常に多くみられる危険な病気ですが、その症状の一つとして下痢が出て来ることもあります。

子宮蓄膿症では、通常は、陰部からの排膿や発熱、元気や食欲の低下など他の症状も多くみられますが、症状がわかりずらいこともあるので、高齢の未避妊メスの下痢では、子宮蓄膿症にも注意が必要です。

その他

肝不全や腎不全、心不全など全身的な病気の症状の一つとして下痢が起こることがあります。

下痢は多くの病気で出てくる可能性のある症状の一つであり、場合によっては血液検査やレントゲン検査などの全身的な検査が必要になることもあります。

便の状態による犬の下痢の種類

一重に下痢と言っても、下痢便にはいくつかのパターンがあります。

水様便

形もないくらいの水のような下痢です。

強い腸炎や食中毒で起こることも多く、腹痛やしぶりを伴うことがあります。

泥状便

形がなくべちゃっと下に付く泥のような便を泥状便(でいじょうべん)と言います。

一般的に下痢というとこの泥状便をさすことが多いです。

軟便

形はあるけれどつまむと形が崩れるくらいの便を軟便と言います。

犬ではヒトに比べやや硬めの便をすることが多く、軟便も広い意味で下痢の一種と考えられます。

血便

血便には、液体の血が出るような激しい血便から、便の表面に少し血が付く軽い血便まで様々あります。

犬は下痢になると便に血が混じることが多いため、血便が出ても軽度の物であれば、一時的な症状で治まるケースもあります。

黒色便(タール便)

色が普段より黒い便を黒色便と言い、黒色の下痢便をタール便と呼ぶこともあります。

タール便は胃や十二指腸などの上部消化管からの出血が原因となることもあり、重い病気が原因となるケースも多い注意が必要な便です。

粘液便

犬の下痢で比較的多いのが粘液便です。大腸には粘液を出す杯細胞(さかずきさいぼう)があり、この杯細胞の活動が活発になるとゼリー状の粘液が増えて、便の表面にゼリー状の物質が付く粘液便が出てきます。

粘液便は腸内環境の変化や腸の粘膜が敏感になった時に出やすいようです。

犬が下痢の症状別対応方法

では実際に下痢が出た場合、どのように対応したらいいかを考えてみましょう。

危険性が少ない下痢=少し様子を見ることができる下痢

以下のような状況では、緊急性は高くなく、少し様子を見てもいいと思われます。

  • 元気食欲がある
  • 1日で治まる下痢
  • いつもと違うものを食べた・ストレスがかかったなど原因がはっきりしていて、一般状態が良い
  • 嘔吐など他の症状がない

注意が必要な下痢=動物病院で診てもらった方がいい下痢

以下のような下痢がある場合、犬に何かしらの病気がある可能性があり、動物病院を受診されることをおすすめします。

  • 2日以上続く下痢
  • 食欲低下を伴う下痢
  • 体重が徐々に減っている
  • 高齢になってからの下痢

緊急性が高い下痢=すぐに動物病院へ行くべき下痢

以下のような下痢は、緊急性が高く、様子を見ていると危険なことがあります。できるだけ早く動物病院を受診するようにしてください。

  • 子犬の下痢
  • 強い血便
  • タール便頻回の嘔吐を伴う下痢
  • ぐったりしている

いつ動物病院に連れて行く?シチュエーション別で考えてみよう

では、愛犬が下痢をした時、どのタイミングで動物病院へ連れて行くのか、いくつかのシチュエーションを考えてみましょう。

下痢が出たが元気で食欲がある

元気や食欲があり一般状態はよいが、下痢が出たという場合には、1-2日は様子を見てもいいでしょう。人でも犬でも一過性の消化不良などであれば自然に収まることも多いです。

元気食欲があってもなかなか下痢が治らない場合には、動物病院で診察してもらった方がいいでしょう。

下痢が続く

下痢は3日以上続く場合は早めに動物病院で診てもらうことをおすすめします。

また、常に下痢が出るわけではないけれど、下痢が出たりでなかったりを繰り返す場合には整腸剤を飲ませたり食餌を変えて様子を見るのも一つの方法です。

それでも治らない場合は動物病院で診てもらいましょう。

また、体重が減少したり、毛艶が悪いなどの全身症状を伴う場合にも動物病院で診てもらうことをおすすめします。

食欲がない

下痢をしていて、さらに食欲がない場合には注意が必要です。

食欲がなくても水を飲んで嘔吐などがなければ、1日は様子を見てもいいかもしれませんが、水を全く飲まない場合や嘔吐が出てくる場合には、脱水をしてしまうのでできるだけ早めに動物病院へ行きましょう。

子犬が下痢をした

子犬の下痢は要注意です。

下痢をしていても食欲元気があればいいですが、食欲が落ちているときは成犬のように様子を見ないですぐにでも動物病院へ連れて行きましょう。

血便をした

血便は通常の下痢より少し注意は必要ですが、軽度の血便で他の症状がない場合は緊急性は高くはありません。

元気や食欲があれば少し様子を見てみてもいいと思います。

一方で、重度の血便がある場合や黒いタール便の場合には、できるだけ早く動物病院で診てもらってください。

動物病院に持って行くと良い物

どうぶつ病院を受診する際には、持っていければ以下の物を持って行ってもらうと、診断の助けになることがあります。

下痢便

動物病院を受診するときに、便そのもの、もしくは便をしたシーツなどを持参してもらうことをおすすめします。

便を持って行くことで、下痢の状態を正確に判断してもらえるだけでなく、検便もしやすくなります。

フードやおやつ

また、普段食べているフードや下痢をする前に食べたもの(パッケージ)も、持って行ってもらうと診断の助けになることがあります。

犬の下痢への家での対処。それって正しい?間違い?

犬が下痢をした時に、忙しくて動物病院へ連れていけない場合には、お家で対処をする飼い主さんは少なくないと思います。

よくある対処法が合っているのか間違っているのか、みていきましょう。

絶食させる

半日程度の絶食は腸を休める意味でも有効です。

ただし、24時間以上の絶食を行うと、栄養を吸収するための腸の絨毛が委縮してしまうことが分かっていますので、絶食をする場合には半日程度にしておきましょう。

人間の薬を使う

人用の薬は犬に安全性が確認されていない物や、用量に注意が必要なものもあり、また使ってはいけない状態である可能性もあるので、人用の薬は使わないようにしてください。

ビオフェルミンに関しては、人用の製剤を使うことも可能ですが、ビオフェルミンで改善するかどうかは下痢の原因によりけりです。

フードを変えてみる

下痢の原因がフードにある場合もあるので、下痢をしているだけで元気食欲がある場合にはフードを変えてみてもいいでしょう。

水を沢山飲ませる

下痢便には水分が多く含まれていますので、下痢の時は脱水しやすくなります。

水分はいつもより多めに取らせてあげてください。

人用の経口補水液などを使ったり、ポカリスエットを少し薄めて飲ませてあげると水分の吸収がいいのでお勧めです。

時々水分を取り過ぎることで下痢をすると勘違いされている飼い主さんもいますが、そういった例はかなり稀です。下痢の時に水分制限をするのはやめておきましょう。

まとめ

犬には下痢を起こす原因や病気は多く、その緊急性や対処法も様々です。

下痢の原因やメカニズムを知っておけば、愛犬が下痢をした時に何を考え、どう行動したらいいかの判断が付くことが多いです。

半日程度ご飯を抜いて様子を見てもいい下痢もありますが、早めに病院で診てもらう必要のある下痢も少なくありません。

治療が必要な下痢を放置したり間違った対応をして、病気が進行して重症になってしまわないよう、今回の記事を参考にしてみて下さいね!

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ABOUTこの記事をかいた人

後藤大介

岐阜大学農学部・獣医学科(現応用生物科学部・共同獣医学科 ) 卒業。大阪・北海道の動物病院に勤務し、2018年、岐阜市にアイビーペットクリニックを開業。生まれ育った地元で、ペットと家族の幸せのためのお手伝いをしたいと考えています。病気の治療だけでなく、ペットの健康のための情報発信や、地域の飼い主さん同士が交流できるような動物病院を目指しています。