2017年8月8日更新

知っておきたい猫の妊娠・出産とそのリスク【獣医師が解説】

後藤大介



獣医師

 

猫の出産はとても感動的で、生まれたての子猫は例えようのないほどのかわいらしさです。ただし、猫の出産は命に関わる一大事です。猫の妊娠・出産には負担やリスクも大きく、「一度出産を見てみたいから」とか「子猫が欲しい」という安易な考えで妊娠・出産させてしまうと、不幸な結果になってしまうこともあります。

今回は、猫の妊娠・出産について知っておいて欲しいことを記事にいたします。現在、愛猫の妊娠・出産を考えている飼い主さんは、今回の記事内容をしっかり頭に入れて、本当に産ませることができるのかもう一度考えてみてくださいね。

 

猫の妊娠

まずは猫の妊娠の概要と気を付ける点を見ていきましょう。

猫の妊娠期間

猫の妊娠期間は約60~63日です。妊娠期間には多少幅があり、交尾から数えて58日~65日くらいの間で出産することがあります。

猫は交尾排卵動物であり、発情を迎えたメス猫は、交尾をしないと排卵しません。つまり、発情中の猫が外に行った後に発情が終わった場合には、交尾をすませている可能性が高いんです。そして、猫の交尾による妊娠率はかなり高いため、交尾をしていれば妊娠していると思ったほうがいいでしょう。

妊娠した猫の見た目の変化は妊娠45日目くらいにならないとわからないことが多いです。そのころになるとおなかが大きくなって若干乳腺が発達してくることもあります。ただし、出産1週間くらい前まであまりはっきりした変化が起きないこともありますので、様子をしっかり見ていないと突然お腹が大きくなって子供が産まれたということになってしまうことも珍しくありません。

獣医師に相談は必須

妊娠・出産に関しては一度しっかり獣医師に相談してください。その理由はたくさんありますが、大きな理由は以下の通りです。

妊娠・出産に伴うリスクの有無の確認

  • ウイルス感染によるリスク:FeLVやFIVなどのウイルス感染がある親の場合、流産や子猫の先天性奇形、ウイルスの伝搬などのリスクがあります。また、母猫自身にも妊娠・出産に伴うストレスによって、エイズや白血病の発症のリスクがあります。
  • 親の病気のリスク:症状が出ていなくても腎不全や心不全、糖尿病などを潜在的に抱えている場合には、妊娠・出産に伴って病気が悪化して症状が出てきてしまう可能性があります。
  • 親の病気による難産のリスク:臍ヘルニアや会陰ヘルニアなどのヘルニアがあると、妊娠・出産に伴う腹圧の上昇により、ヘルニアが大きくなったりそこから子宮が出てきてしまうことがあります。また、昔に交通事故などで骨盤骨折をしたことのある猫では、産道が非常に狭く、自然分娩が不可能なケースもあります。

妊娠・出産スケジュールの確認

交尾~妊娠~出産の約2か月はあっという間に過ぎていきます。出産間際になってから、これは大丈夫なのかと不安になっても、一度も診察を受けていない状況であれば今現在どのような状況なのかが全く分かりません。

交尾から出産までにどういったスケジュールで診察を受ける必要があるのか、また出産までの間にどのような変化があり、どういったリスクがあるのかを獣医師に確認するということが、安全な出産のためには大切です。

一度も診察を受けていない状態で、「今出産しているんですが、大丈夫ですか?」と聞かれても、獣医師としては答えようがありません。獣医師が母猫や胎児の状態をしっかり把握していればそれだけ確実な対応が可能になりますので、必ず診察を受けておくようにしましょう。

胎児の数やサイズの確認

後からも解説しますが、妊娠診断では妊娠の有無だけでなく、胎児の数や胎児が元気に育っているかどうか、さらには胎児の大きさが産道を通れるサイズなのかなどの確認ができます。

これらを確認することで、何頭出産するのかや、自然分娩の可否などがわかります。出産のリスクや不安を減らすためにもこれらを確実に調べてもらっておきましょう。

妊娠の確認

妊娠の確認は以下のような方法で行います。

妊娠の確認は妊娠30日以降に超音波検査で

妊娠の確認は交尾後30日以降で行うことができます。最初に出来る妊娠検査は超音波検査です。超音波検査では30日以降で妊娠確認できることが多いため、まずは交尾後30日以降に動物病院を受診するようにしましょう。

胎児の数やサイズの確認はレントゲン検査で

また、妊娠の頭数や子どものサイズはレントゲン検査でわかりますが、レントゲン検査は妊娠初期には胎児への影響が懸念されますのであまり勧められません。最低妊娠50日以降でレントゲン検査をして子供の頭数を調べたほうがいいでしょう。骨盤と仔猫の大きさの関係(産道を通れるサイズかどうか)を調べるためには、妊娠57日前後にレントゲン検査を受ける必要があります。

猫の妊娠中に気をつけること

妊娠中には以下のようなことに気を付けてください。

妊娠初期には薬に注意

妊娠初期のワクチン接種やある種の薬の使用は胎児への影響があるといわれていますので、妊娠している可能性がある場合は、必ずその旨を獣医師に伝えて、ワクチンや薬などの使用を相談してください。

妊娠期間中はカロリーを増やす

妊娠中は子供の成長のためにもたくさんのエネルギーが必要になります。特に明らかにお腹が大きくなってくる妊娠後期には子猫の栄養要求量も増えてくるため、普段の2倍近いカロリーが必要になることもあります。妊娠初期に太り過ぎるのは良くないですが、出産が近くなって来たら、いつもの1.5倍~2倍程度のフードを与えるようにしましょう。

出産が近くなったら産床を準備

出産を1週間前くらいに控えた場合には、産床を準備しましょう。少し暗めの隠れた場所に、タオルを敷いた段ボールなどを用意して、そこで安心して休めるようにしてあげてください。できれば猫の様子がわかるような覗き窓があるといいでしょう。

妊娠させる年齢や回数は?

妊娠させるなら1歳以降で

猫に初回発情があった場合、猫が妊娠可能な体になった証拠です。通常初回発情は生後半年~1年できますので、その時期から妊娠は可能です。

ただし、生後半年では、生殖器を含めた内臓はまだ完全に大人になりきっていません。妊娠をさせるのであれば、1歳以降で行うのが理想です。

最終出産は6歳をめどに

猫には閉経がないため、理論的には死ぬまで妊娠は可能です。ただし、妊娠・出産には大きな負担やリスクがありますので、高齢になっての出産はすすめられません。最終出産は6歳くらいまでにしておいた方がいいでしょう。

猫は授乳が終わると発情しますので、年に2~3回の出産は可能ですが、年2回以上の出産も体への負担が大きいです。できれば、8か月~1年以上空けて妊娠させてください。そのため、出産回数は多くても6~7回くらいまでがいいでしょう。

猫の妊娠のデメリット

妊娠のデメリットには以下のものがあります。

難産のリスク

猫の難産は少ないですが、難産になることもあります。難産は子供の命だけでなく、母体の危険を伴うこともあります。

妊娠・出産によるストレス・負担

妊娠・出産には体力を使うだけでなく、子供を産む環境を作るためのストレスがかかります。子供に栄養を与えなければならない上に子供を守るために非常にナーバスになるため、母猫への負担が大きくなります。

避妊手術をしていないことによるリスク

妊娠・出産させるためには避妊手術をしておくことはできません。猫の避妊手術には乳腺腫瘍・糖尿病・子宮卵巣の病気などを予防し、寿命を延ばす効果があることがわかっています。避妊手術のメリットを受けられないのもデメリットの一つですね。

偽妊娠とは

猫には妊娠をしていなくても妊娠をしたような体の変化を起こす「偽妊娠」というものがあります。これは、妊娠していないのに体の中で妊娠したのと同じようなホルモンの変化が起こることが原因です。偽妊娠が起きると、乳房の発達や乳汁の分泌、食欲の減退、巣作り行動などが起こります。

偽妊娠は発情後2週間~4週間くらいで起こることが多く、1週間~4週間程度続くことがあります。基本的には自然に収まることが多いですが、中には乳腺炎や子宮の病気などにつながってしまうことがあります。

猫の出産


では、次に猫の出産についてお話しします。

猫の出産の特徴

猫は1回の出産で3頭~6頭を出産することが多いです。1歳未満や7歳以上などだと1~2頭など少数になる傾向にあります。

ただし、これらの子猫は基本的に一卵性ではありません。猫の子どもは1つの卵子からたくさん生まれるわけではなく、1つの卵子から1頭の子どもが生まれるため、毛色などの子猫の見た目はさまざまです。

父親が違う子猫

また、猫では「同期複妊娠」と言われる現象があります。これは1回の妊娠で違う父親の子供を妊娠する現象であり、外に行く猫では比較的よく起こります。これは、猫では交尾後にすぐに発情が終わるわけではなく、数時間から数日の間は発情が続くため、その間に複数の雄と交尾をすることがあるためです。

出産が近くなったら獣医師へ報告

交尾・妊娠時に動物病院へかかっておき、出産が近くなったらかかりつけの先生に電話連絡しておきましょう。出産時のアドバイスがもらえる可能性がありますし、病院によっては緊急時の対応方法や緊急の連絡先を教えてくれることもあります。どれくらい対応してくれるかは動物病院によって違いますが、普段からまめに動物病院を受診して、信頼関係をしっかり作っておくことがいざという時のためには大切です。

猫の出産の兆候

猫の出産兆候ははっきりしないことも多いです。一般的には出産数週間前から巣作り行動をはじめ、出産数時間前には産床から出てこなくなります。あまり人慣れしていない猫の場合、人が様子を観察していると出産が始まらないこともあるので、あまり何度も確認しに行かない方がいいこともあります。

猫の出産の様子

猫の出産は陣痛から始まります。定期的にお腹を収縮させるような行動がある場合は陣痛があり出産が始まったことを意味します。

猫の強い陣痛があると通常30分以内で出産が始まります。出産時には産道が開口し子猫が出てきます。子猫の30%は逆子だと言われていますので、後ろ足から出る逆子で生まれてきても特別問題ありません。

子猫が産まれた後に、胎盤が後産(あとざん)として出てきます。胎盤は緑~赤褐色のドロッとした物体ですが、母猫が食べてしまってわからないこともあります。後産は母猫が食べても特に問題ありませんが、下痢をすることもあるので、落ちていたら片付けてください。

子猫と子猫の出産間隔は2時間以内、すべての出産が終わるまで数時間~10時間程度かかると言われていますが、その子によって時間はバラバラです。一般的に出産経験が乏しい母猫ほど時間がかかり、何度か出産している母猫では出産にかかる時間は短くなります。

猫には死産が多い

猫には難産は比較的少ないですが、死産が多く認められます。死産の原因はさまざまですが、FeLVやFIV、FIP、FHVなどの母猫のウイルス感染が原因ではないかと考えられます。

猫の出産の異常行動

出産後に自分の子供を食べてしまったり、育児放棄をしてしまうことがあります。特に、出産環境が悪く安心して育児ができない場合や、栄養状態が悪く育児に不安がある場合にこのような行動が起こることが多いです。できる限り出産・育児の環境を整えてあげてしっかり栄養を与えるようにしましょう。

猫の産後の注意点

母猫の体調不良

出産後に体調を崩す母猫は少なくありません。

  • 胎児遺残:一部の胎児が残ってしまう
  • 胎盤停滞:胎盤の一部が子宮に残ってしまう
  • 低カルシウム血症:出産・授乳により体内のカルシウム成分が不足する

などを代表として周産期の異常は多く出てきます。産後に食欲がない・体が熱い・呼吸が荒い・悪露が多いなどの症状があれば早めに動物病院で診てもらった方がいいでしょう。その際、子猫を離すと不安になってしまう母猫も多いため、子猫の健診を兼ねて子猫も一緒に連れて行きましょう。

子猫の体調不良

子猫の育児は基本的に母猫に任せる方がうまく行きます。完全な人口哺乳で子猫を育てるのは容易ではないため、人が手を出して育児放棄にならないよう、あまり子猫をかまいすぎないことも大切です。

ただし、しっかりお乳が飲めているのか体重のチェックをしてもらうことをおすすめします。子猫は毎日10gずつくらい体重が増えるのが普通です。料理用のはかりなど、グラム単位を測定できるはかりで毎日体重は測っておきましょう。

子猫には口蓋裂や鎖肛など、命に関わる病気があるケースもあります。母猫がそれほどナーバスでないのであれば、生まれた次の日にでも一度母猫・子猫一緒に動物病院で診てもらうことをおすすめします。

 

まとめ


猫の妊娠・出産にはいろいろなリスクがあります。また、無事に生まれてきたとしても、多数の子猫が産まれてきますので、その子たちをしっかり飼育できるかどうかという問題もあります。すべての子を飼うのであれば、避妊手術をしないとまた子猫が増えてしまいますので、そのあたりの費用についても考えなければいけません。

子猫の出産に関しては、これらのリスクやデメリットを考えたうえで、しっかりと管理ができる場合のみ行うようにしましょう。もし、管理が難しいと判断した場合は、妊娠させないだけでなく、病気の予防や発情によるストレス予防のためにも避妊手術をしておくことをおすすめします。

 
 

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