2017年9月11日更新

愛猫は大丈夫?意外と知られていない猫の消化管内寄生虫とそのリスク【獣医師が解説】

後藤大介



獣医師

 

ワクチンなど猫の予防医学の発達とともに、危険な感染症などは大幅に減ってきました。

それでもまだ多い感染症、それが寄生虫です。特に猫のお腹に住む消化管内寄生虫は、子猫や野良猫に多く、人に感染することもある危険な寄生虫です。

ただし、正しい知識を持って、しっかり予防や治療を行えば、消化管内寄生虫はそれほど怖いものではありません。

そこで今回は、猫の消化管内寄生虫についてお話いたします。

 

消化管内寄生虫とは

寄生虫とは

寄生虫とは、動物の体に住みつき、その動物(宿主)から栄養を得て生活する虫のことです。

その中でも消化管の中にすむ消化管内寄生虫の種類は多く、日本に存在する猫の消化管内寄生虫だけでも10種類以上確認されており、子猫や野良猫の診察では非常によく見る病気です。

他にも、皮膚に寄生するノミやダニなどの外部寄生虫や赤血球に寄生する寄生虫などいろいろな種類の寄生虫が存在します。

猫の消化管内寄生虫には、猫の体内だけで発育することができる寄生虫もいますが、成長の過程で猫以外の中間宿主(カエルやノミなど)に寄生する必要がある寄生虫もあります。

猫の消化管内寄生虫の中間宿主の多くが昆虫類になりますので、中間宿主が必要な寄生虫は外に行く猫に多くみられます。

また、猫の消化管内寄生虫は人にうつることもあります。

猫の消化管内寄生虫はヒトの体内で成長できないものがほとんどですが、体力や免疫力の弱い子供や高齢者、あるいは妊婦さんの体に入り込んで問題になることがあり、注意が必要になります。

寄生虫の分類

消化管内寄生虫には大きく分けて蠕虫(ぜんちゅう)と原虫(げんちゅう)という2種類の寄生虫が存在します。

蠕虫は、比較的大きく、肉眼で確認することができる寄生虫です。

蠕虫の多くが白くて長細い形をしており、ミミズも蠕虫の一種です(ミミズは寄生虫ではありませんが、蠕虫には寄生虫以外の虫も含まれます)。

長さは蠕虫の種類によって違い、数㎜の寄生虫から1メートルを超えるような非常に長い虫も存在します。便や肛門の表面に虫が付いていて発見されることが多いです。

一方、原虫は、肉眼では確認できないような小さな寄生虫です。

原虫は目に見えないため、便や肛門についているということで見つかることはありませんが、猫の慢性的な下痢の原因になることが多いです。

便を顕微鏡での検便により発見されるか、便の遺伝子検査で見つけることができます。

猫の蠕虫

① 回虫

猫の寄生虫の中で最も一般的に見つかるのが回虫(猫回虫)です。回虫は10㎝程度の白くて長い虫であり、便の中に見つかったり、時におう吐物の中に出て来ることもあります。

回虫の病原性はそれほど強くなく、特に大人の場合は感染していても無症状であることも多いです。

一般的には軟便や下痢が出ることが多く、栄養を取られてしまってなかなか太らない子もいます。子猫の場合には時に重度の栄養不良を起こしたり、非常にまれに虫による腸閉塞も報告されています。

回虫は、回虫に感染している猫の便の中に排泄される卵を口にすることで感染してしまいます。

そのため、野良猫や外に行く猫でしばしばみられる病気です。また、母親から子猫への感染も多く、ペットショップやブリーダーから来た猫でも回虫が見つかることは少なくありません。

回虫の治療方法は、飲み薬もしくは背中に垂らすスポットオンの薬になります。

最近では、1回垂らすだけでかなりしっかりした効果のあるスポットオン製剤があるため、そちらを使って治療することが多いです。

② 瓜実条虫

5㎜~1㎝の白い片節(へんせつ)が多数連結した形の寄生虫であり、1m以上になる虫もいる非常に大型の寄生虫です。

瓜実条虫も強い症状を起こすことは少なく、最もよくある症状は下痢になります。大きな虫が寄生している場合には栄養成分が取られてしまうために、しっかり食べているのに太らなかったり、毛艶が悪くなるという症状が出て来ることもあります。

片節が一個ずつ切れて出て来るため、「米粒のようなものが便の表面や肛門の近くで動いている」という症状で気付かれることが多い寄生虫です。

瓜実条虫は、猫とノミの間を行き来して生きている寄生虫です。

瓜実条虫の幼虫が感染したノミを猫がグルーミングなどで飲み込んでしまうことで、瓜実条虫は猫の体に入り込みます。

ノミは猫の肛門に付いた瓜実条虫の片節を食べることで瓜実条虫に感染します。ノミの体内でないと幼虫が成長できないため、瓜実条虫はノミに寄生された猫によくみられる寄生虫です。

瓜実条虫は、抗寄生虫薬の内服もしくは注射によって駆虫します。

最近では「ブロードライン」という背中に垂らすスポットタイプのお薬でも、瓜実条虫を駆虫することができます。

瓜実条虫はノミが媒介する寄生虫ですので、その治療には瓜実条虫の駆虫だけでなく、ノミの予防も大切になります。

③ マンソン裂頭条虫

マンソン裂頭条虫は瓜実条虫と似た形をしていますが、約10cmと瓜実条虫よりもよりも小型の条虫です。

マンソン裂頭条虫も回虫などと同じく、ほとんど症状を起こしません。なんとなく痩せてたり、便に虫が出てきたということで気付くことが多い寄生虫です。

マンソン裂頭条虫は、中間宿主を2回必要とする寄生虫であり、始めにケンミジンコに寄生してある程度成長した後、カエルやヘビなどを経由して、それらの動物を食べた猫にうつるという特徴を持っています。

そのため、瓜実条虫は、水溜まりや田んぼなどミジンコやカエルが存在できる場所に行く猫によくみられる寄生虫です。

治療は抗寄生虫薬の内服もしくは注射になります。他の寄生虫に比べて薬が効きにくく、高用量での投薬が必要になる寄生虫です。

外に行く猫では何度も感染することがありますので、マンソン裂頭条虫には注意が必要です。

 

猫の原虫

① ジアルジア症・トリコモナス症

ジアルジアもトリコモナスも原虫の一種であり、顕微鏡でしか見えない原虫です。

この2つの寄生虫は、顕微鏡で見てみてもほぼ同じように見え、治療もほとんど同じであるため、区別しないで治療されることも少なくありません。

ジアルジアやトリコモナスは、どちらも非常に頑固な下痢を引き起こす寄生虫です。

検便で見つけることが難しいため、一般的な下痢の治療に反応しない難治性下痢として診断されることが多いです。

最近では猫の便の遺伝子検査によってトリコモナスやジアルジアの検査ができ、これらの寄生虫の診断精度が上がっています。

ジアルジアもトリコモナスもどちらも感染した動物の便を介して感染すると考えられています。

治療はメトロニダゾールなどの抗原虫薬の投与によって行います。

投与期間は1週間から数週間ですが、効果が出にくいケースもあり、長期の投薬が必要になったり、薬の変更が必要になるケースもあります。

猫の慢性下痢の原因として非常に重要な寄生虫です。

② コクシジウム

コクシジウムも原虫に分類される小さな寄生虫で、重度の下痢を起こすことのある寄生虫です。

成猫よりも子猫で問題になることが多く、子猫で感染量が多いと重度の下痢から命を落とすこともある怖い病気です。

コクシジウムは、下痢以外には嘔吐や食欲不振などの消化器症状を起こすことが多いですが、成猫では明らかな症状が出ないこともあります。

コクシジウムも便に排泄された寄生虫が口に入ることで感染すると考えられています。

コクシジウムの治療はサルファ剤などの抗原虫薬の内服治療になります。重度の下痢や衰弱を起こしている子猫の場合は、入院で点滴治療が必要になることもあります。

通常、数日~3週間程度の治療で治まってくれることが多いです。

③ トキソプラズマ

トキソプラズマはコクシジウムに似た原虫ですが、コクシジウムよりは圧倒的に少なく、症状を起こすことも多くありません。

ただし、猫の糞便中に排泄されたトキソプラズマからヒトへの感染が起きることがあり、妊婦が初感染した場合に胎児に影響するために、妊婦さんへの感染に注意が必要な寄生虫です。

感染した猫には下痢や発熱などが起きることがありますが、無症状であることも多いです。

猫の不便中にオーシストと言われる卵のようなものが排泄され、それが口から入ると人に感染することがあります。

猫は、ネズミや生の豚肉などから感染し、猫の体内でトキソプラズマが増えてトキソプラズマ感染症を引き起こします。

トキソプラズマの治療はサルファ剤などの抗原虫薬になります。完治させるまでに数週間の投薬が必要になることが多いです。

妊婦さんは感染猫の便を直接触ったり、吸い込まないように細心の注意が必要となります。

寄生虫の予防

寄生虫の予防方法

基本的に、消化管内寄生虫の感染経路は

  • 感染猫の便
  • カエルやネズミなどの小動物
  • ノミなどの寄生虫

のどれかになります。そのため、寄生虫の予防方法としては

  1. 外に出さない
  2. 糞便をすぐに掃除し、衛生管理をしっかり行う
  3. ノミ予防を行う

ということが重要になります。

外に行く猫の場合には、寄生虫の100%の予防は難しいです。もし寄生虫に何度もかかってしまう子であれば、予防的駆虫(月に一回駆虫薬を投与する)などの方法を取ることも有効です。

オススメの衛生管理方法

寄生虫は消毒薬に非常に強い抵抗性を持ちます。そのため、ハイターなどの塩素系の消毒薬で寄生虫やその卵を死滅させることは難しくなります。

最も確実な寄生虫の消毒方法は熱湯消毒になります。愛猫に寄生虫がいた場合には、トイレやタオルなどを熱湯につけて消毒し、乾燥させておきましょう。

寄生虫のほおっておくと

猫の消化管内寄生虫は、子猫以外ではあまり強い症状を出さないことが多いです。そのため、比較的放置されがちなのですが、猫の消化管内寄生虫を放置しておくと、以下のようなリスクがあります。

慢性下痢や栄養不良を起こす

寄生虫のもっとも多い症状は下痢です。また、寄生虫に栄養を取られてしまうため、栄養不良を起こすことも多いです。

子猫以外では命に関わるような状態になることは少なくても、栄養不良から体力を落としてしまい、他の病気を発症してしまう可能性もあります。

他の猫にうつる

猫の多頭飼いの場合は、寄生虫をうつし合ってしまうことがあります。

うつし合いによって寄生虫の寄生数が増えてしまうと、下痢や嘔吐、腸閉塞のリスクが増えるなど重症化してしまう可能性があります。多頭飼いの家庭では、より寄生虫には注意が必要です。

不衛生

寄生虫症をほおっておくと、知らない間に虫が落ちていたり、猫のお尻に虫が付いているなど不衛生な状態になってしまうこともあります。

人に感染する

トキソプラズマの項目でお話ししましたが、猫の寄生虫がヒトに感染することもあります。

回虫も人に感染して幼虫移行症と呼ばれる病気を発症することもあります。

可能性は高くはないですが、猫の寄生虫を放置しておくと、人への感染の危険性もあることは頭に入れておきましょう。

まとめ


猫の消化管内寄生虫は、それほど強い症状を出すことは少ないため、虫が出てきて初めて病院へ行くという人も多いようです。

ただし、寄生虫を放置しておくことは、猫の健康を害するだけでなく、他の猫への感染や、時としてヒトに感染するリスクもはらんでいます。

猫の寄生虫は圧倒的に子猫に多いため、子猫を飼ったらまずは便を持って動物病院を受診し、検便をしてもらいましょう。

また、軟便や下痢が続く場合や、体重があまり増えない、毛艶が悪いなどの場合も、しっかり検便をしてもらってくださいね!

 
 

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