2017年11月24日更新

犬の癌とは?もしものために症状、治療、緩和ケアの知識を!【獣医師が解説】

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犬を飼う人の意識が高まり、獣医療の発達も手伝って、犬も長生きするようになりました。それに伴って、病気の種類もひと昔とは変わってきています。

犬も私たち人と同じように、高齢になると心臓病、痴呆、腫瘍性疾患などの疾患に罹患することが増えています。

そして、それらの疾患も治療することができるようにもなってきました。

今回は犬でも多くみられる腫瘍性疾患についてです。身近な病気になりつつも、診断や治療には専門的な知識や施設が必要です。

もし愛犬ががんを患った時に慌てず対処できるよう参考になれば幸いです。

 

犬のがんとはどんな病気か

がんとは

がんとは悪性腫瘍のことです。腫瘍は無秩序に増殖する細胞の集団で、悪いものでなければ良性腫瘍、悪いものであれば悪性腫瘍(がん)となります。

そして、悪性のものは組織の種類により種類分けをします。

皮膚や粘膜、乳腺などから発生する上皮性のものは癌、筋肉や骨、神経などから発生するものを上皮性でない(非上皮性)ものは肉腫と呼ばれます。

上皮性の例です。

  • 皮脂腺腫(良性) ⇔ 皮脂腺癌(悪性)
  • アポクリン腺腫(良性) ⇔ アポクリン腺癌(悪性)
  • 乳腺腺腫(良性) ⇔ 乳腺癌(悪性)
  • 扁平上皮癌(悪性) など

非上皮性の例です。

  • 平滑筋腫(良性) ⇔ 平滑筋肉腫(悪性)
  • 線維腫(良性) ⇔ 線維肉腫(悪性)
  • 血管腫(良性) ⇔ 血管肉腫(悪性)
  • 骨肉腫(悪性)、リンパ腫、肥満細胞腫 など

腫瘍はどんな組織にもできる可能性があり、犬でも良性、悪性さまざまな腫瘍性疾患の発生がありますが、犬で最も多い腫瘍は皮膚腫瘍です。

犬は全身を被毛で覆われているため、たとえ皮膚の腫瘍であっても、なかなか発見しづらいものです。

しかし、 皮膚腫瘍は肉眼的に病変を確認することができますので、たとえ被毛で覆われていても、少し注意をしてあげることで早期発見が可能です。一方で、体腔内にできた腫瘍ではなかなか簡単に発見できるものではありません。

読者の方の中には、定期的に健康診断を受けさせている方もおられるとは思いますが、それでもやはり症状が出る前に発見することはなかなか難しいものです。

悪性の腫瘍とは?

さて、「悪性」と聞くと、どのようなイメージを持たれますか?

進行が速い、再発する、転移する、余命宣告を受ける…など、いろいろ思い浮かぶと思います。

確かに、悪性の腫瘍では、進行も速く、再発や転移をすることが多いです。

しかし、腫瘍の種類によっては、何年もかけて大きくなるものや、転移をせず原発部位だけで広がっていくものもあります。

また逆に、良性でも、どんどん大きくなるもの、再発を繰り返すものもあります。

大切なことは、何か異変を感じたら、動物病院へ行き、適切な検査を行い、正確な診断をつけることです。

腫瘍には種類により様々な性格があります。その性格により、治療方法は異なり、オーナーさまと話し合って治療方針を決定します。

早期発見


私たち人と同じく、犬も早期発見、早期治療をすることで治癒や延命が可能です。

どんな病気でも、できれば早期に発見をしたいものですよね。それでは、早期発見するためにご家庭でできることを考えていきましょう。

愛犬の普段の状態を把握する

当たり前のことですが、普段の状態を把握することで、異常が分かります。

フードの食べ方、活動性など、普段と異なることがあればやはり、何らかトラブルを抱えている可能性もあります。

また、毎日見ていると気づかないものですが、体重の増減も体調のバロメーターになります。

体重は日内変動もしますので、毎日ではなくてもよいですが、決まった時間に毎回同じ条件で体重測定をしてみてください。

短期間で10%以上の増減がある場合には少し心配です。

腫瘍性疾患にかかわらず、どんな病気でも特異的な症状が出ないこともあり、初期症状で確定診断をつけにくい可能性もありますが、普段と異なる様子が見られたら、動物病院へ相談することをお勧めします。

愛犬の体の状態をよく観察する

犬の腫瘍で最も多いのが、皮膚腫瘍です。つまり、触ってしこりの確認ができたり、目視で皮膚の様子の異変を確認したり、専門家ではなくても、普段とは違った変化を確認することが可能なのです。

皮膚の腫瘍は動物病院で発見するよりも前に、患者さんが気づき、相談に来られることが圧倒的に多いのです。

毎日ではなくてよいので、たまには愛犬の体をよく触ってスキンシップを取り、気になるところがないかを確認してあげてください。

また、メス犬で最も多い腫瘍は、乳腺腫瘍です。乳腺腫瘍も皮膚腫瘍と同様に比較的発見をしやすい腫瘍です。

犬は仰向けにしてお腹を見せることを嫌がることもありますが、仰向けにゴロンと寝かせて腫瘍の有無を確認してあげてください。

犬の乳腺は4〜5対あり、前は前肢の付け根から、後ろは陰部の近辺まで乳腺組織が存在します。腫瘍は乳頭の周囲に発生することが多いですが、乳腺のあるところには発生します。

愛犬をリラックスさせながら、ゆっくりと触って確認をしてあげるとよいですね。

また、乳頭からの分泌物の有無もチェックしましょう。

避妊手術をしていない場合には、発情出血のあと、偽妊娠状態となり、乳腺が一時的に腫れ、乳汁が分泌することがあります。

乳腺の腫れか腫瘍かの区別がつかない時には動物病院で確認してもらうと安心です。

体のケアを習慣にする

耳に発生する耳垢腺の腫瘍、肛門周囲に発生する腫瘍、口腔内に発生する腫瘍などは、普段、耳掃除をしたり、肛門腺の確認をしたり、歯磨きの習慣をつけたり、普段のケアを行なってあげることでいち早く異常に気づくことができます。

腫瘍性疾患は高齢になればなるほど発生率が高くなりますが、高齢になってからいきなりケアをしようとしても愛犬が嫌がってしまうものです。

できれば子犬の頃から全身を触ってケアをする習慣をつけることをお勧めします。

排泄物や分泌物もチェックする

毎日のことですが、排泄物や分泌物も重要なチェックポイントです。

排泄の回数や状態、血液の混入があるかどうかなどをチェックしてください。

また、くしゃみや鼻水があるかどうか、よだれの有無も大切です。

もちろんこれらの症状が腫瘍に直結するものではありませんが、腫瘍でみられる症状の一つでもあります。

 

がんの症状


代表的な腫瘍の症状について組織別にみていきます。

口腔内腫瘍

犬の口腔内悪性腫瘍は、線維肉腫、扁平上皮癌、悪性メラノーマです。

いずれも初期病変は発見が難しいかもしれません。

少し進行すれば、よだれが多い、よだれに血液が混じる、あまり食べない、などの症状が出ます。

歯周病でも同じような症状が出ることがありますので、このような症状が気になるときには、動物病院でお口の中を見てもらうようにしてください。

消化器系の腫瘍

食欲不振、嘔吐、下痢、体重減少などの症状が出ます。

もちろん、これらの症状は腫瘍で特異的にみられるものではありません。

このような症状が続く場合には、単なる炎症ではないことが多く、腫瘍性疾患が疑われますので、一歩踏み込んだ詳しい検査が必要になるでしょう。

泌尿器系の腫瘍

犬でも膀胱にがんができることがあります。その場合には、血尿、頻尿、排尿困難などの症状が出ます。

症状からだけでは膀胱炎、尿路結石との鑑別も難しいです。

肺腫瘍

犬の原発性の肺がんは少なく、転移によるものが大部分を占めます。腫瘍のできる部位によっては、腫瘍が大きく成長するまで症状が出ないこともあります。

一般的に、咳や呼吸の異常、元気がないなどが症状として出ます。

骨の腫瘍

初期症状はびっこです。痛みがあるため、歩様に異常が出ます。

レントゲンで診断をし、病変部の細胞診で確定診断をつけますが、初期にはレントゲンで発見することが難しいことがあり、腫瘍が確定する頃にはもう肺に転移がみられることもしばしばです。

脳腫瘍

高齢犬で多いです。腫瘍ができて機能障害に陥る部分により、発現する症状も異なります。

代表的な症状として痙攣発作や性格の変化、認知症状などが挙げられます。

痙攣発作はてんかんでもみられますが、高齢になってから始まった発作は腫瘍が原因であることが多いです。

MRI検査をして病変の有無を確認します。根治はなかなか難しい腫瘍の一つです。

皮膚腫瘍

皮膚、皮下の組織に「できもの」ができます。体の表面で、目視や触っての確認ができるので、症状が出る前にオーナーさまが発見することが多い腫瘍です。

場合によっては、痒みが出たり、赤い、黒いなどの皮膚の色調の変化もみられます。

乳腺腫瘍

乳腺近辺にしこりができます。オーナーさまが発見されたり、動物病院での検診で見つかることが多いです。

犬の乳腺腫瘍は良性のことが多いですが、ネットなどで調べて自己判断されるのは危険です。しこりに気づいたら早めに動物病院での受診をお勧めします。

リンパ腫

リンパ腫は白血球の一種であるリンパ球が腫瘍化する腫瘍です。

さまざまな病型がありますが、犬では体表リンパ節が複数腫れる多中心型リンパ腫の発生が最も多いです。

体表リンパ節は頸部、膝の裏、内股、脇の下などに存在しますが、特に頸部や膝の裏のリンパ節の腫れは気付きやすく、リンパ節の腫れに気付いて病院へ来院される方が多いです。

多中心型ではリンパ節の腫れ、発熱、食欲不振などの症状が出ます。

消化器型リンパ腫では、主に小腸に病変が出ます。長期間にわたる下痢や嘔吐を主症状とし、体重減少がみられます。

皮膚型リンパ腫は、治療に反応しない難治性の皮膚病として病変が出ます。

初期では発赤や痂皮といった感染性の皮膚病と鑑別困難な病変ですが、治療に反応せず、進行すると皮膚が潰瘍化し、感染や痛みのコントロールが難しくなります。

ガンの治療


獣医療の進歩により、治療の選択肢も広がっています。最近では、大学病院だけでなく、腫瘍専門の治療施設も見かけるようになりました。

がん治療の選択肢は動物でも人と同じ、外科手術、化学療法、放射線療法の三本柱です。

腫瘍の種類やステージにより、最適な治療を行います。ここではそれぞれの治療についてご紹介します。

外科手術

固形癌の治療の中心です。外科手術の目的も2パターンあります。完治を目指しての手術、そして、緩和療法のための手術です。

転移がなく、患部の状態によっては、手術によりがん細胞を100%摘出することができ、完治が望めます。

固形癌では外科手術により摘出できるものは摘出し、できる限り取り除きます。

転移をしていたり、腫瘍全てを取り除くことが難しい場合には、患者さんの生活の質(QOL)を改善する目的で手術をすることがあります。

化学療法

化学療法とは、いわゆる抗がん剤を用いた治療です。犬でも最近では分子標的薬を使用できるようになりました。

「抗がん剤」と聞くと、毛が抜け落ちる、猛烈な吐き気、などのイメージが強いと思います。読者の皆様も、気になるのは副作用ではないでしょうか。

副作用も目に見える副作用と見えない副作用があります。注意が必要なのは、目に見えない副作用です。

まず、抗がん剤でなぜ副作用が出てしまうのか、そのメカニズムについて簡単にご説明をしますね。

抗がん剤ではなぜ副作用が出るのか?

抗がん剤というのは一部の例外の除き、「●●がんに効く特効薬」というわけではありません。

がん細胞ののもつ「無秩序に増殖する」という特徴を利用し、攻撃されるように作られたお薬です。

体内には、がん細胞と同じように毎日のように細胞が増えている組織があります。

それが骨髄です。その他、消化管や毛根なども含まれます。抗がん剤は、増えようとしている細胞の動きをストップしてしまうのです。

そのため、骨髄、消化管、毛根なども薬の影響を受けてしまい、それが副作用として現れるのです。

目に見える副作用

目に見える副作用は、毛が抜け落ちてしまったり、下痢をしてしまう、などです。

犬では毛が抜け落ちてしまうことはほとんどありませんが、トリミングの必要な犬種では被毛に影響が出ることがあります。

また、ヒゲが抜け落ちたりすることもあります。

目に見えない副作用

目に見えない副作用は、骨髄に対する副作用です。骨髄は赤血球や白血球、血小板などの血液細胞を作る組織です。

このうち白血球に属する一部の細胞は、体に細菌が入ってきた時に自分の身を呈して細菌と闘う特攻隊のような働きをします。

つまり、骨髄で常に作られては壊れ、作られては壊れているのです。

その細胞が抗がん剤の影響で一時的に作られなくなってしまうため、体が一時的に細菌と戦ってくれる力、つまり免疫力が弱くなってしまうのです。この状態は血液検査をしないとわかりません。

抗がん剤の投与期間

抗がん剤はお薬の種類によりますが、1週間に一度の投与が一般的です。

これは、前回の抗がん剤の投与から体が回復して次の抗がん剤に耐えられるぎりぎりの期間なのです。抗腫瘍作用だけを考えれば毎日でも投与をしたいところですが、それには体が耐えられないのです。

この他、お薬によってこれら以外にも副作用が出る場合があります。

放射線治療

大学病院をはじめ特別な施設が必要となり、犬では治療にあたり全身麻酔が必要になるため、気軽にできるものではありませんが、選択肢の一つとして考えることができます。

手術で取りきれなかった腫瘍に対して術中に照射をしたり、鼻腔内など顔面にできた腫瘍などの治療で選択をします。

家での過ごし方

腫瘍性疾患の治療中、自宅ではどんな生活をしたらよいのでしょうか。

外科手術後や放射線治療中

全身麻酔によって体の機能を一度低下させているので、回復までは時間がかかります。

健康な若い犬でも本調子になるまでは2週間ほど時間を要すると言われています。腫瘍が発生する犬は高齢であることが多いと思いますし、腫瘍性疾患にかかっているため健康とは言えません。

術後、放射線治療中は無理せずゆっくり過ごさせてあげましょう。

外科手術後は、腫瘍を摘出して組織のダメージも大きく、痛みもありますので、特に抜糸が終わるまではお散歩も控えた方がよいですね。

また、放射線治療では複数回に渡り全身麻酔が必要にりますので、できるだけストレスをかけず、愛犬が過ごしたいように過ごさせてあげましょう。

化学療法中

化学療法中は免疫機能が下がります。散歩や不要な外出で細菌感染をしないとも限りません。

なるべく自宅で安静に過ごしましょう。

愛犬の過ごし方、ではありませんが、抗がん剤を投与した後の排泄物にはお薬の代謝物が含まれます。

排泄がみられたらなるべく早く処理をし、処理をする際にはゴム手袋をして、処理後はよく手を洗うようにしてくださいね。

治療中の食生活

闘病中だからといって栄養のあるフードや私たちの食べ物を与える方がみえますが、急なフード変更は体調を崩す原因に可能性があります。

体調を崩した原因が治療に起因したものかどうかの判断が難しくなりますので、いつものフードやいつものおやつを、いつものように与えるようにしてください。

緩和ケア

がんができたからといって、積極的に治療をしないという選択肢もあります。

例えば、高齢であったり、がんが進行している場合です。治療をすることで、今まで保ってきたがんと体のバランスを一気に崩すことになります。

それが吉と出ないこともあります。緩和治療は、患者さんの生活の質を上げることを目標とします。

痛みがあれば痛み止めを使って痛みを緩和します。

もちろん犬は言葉で表現ができませんので、オーナーさまから、愛犬の様子を聞き、それに応じた治療を行うことになります。進行している場合でも、驚くほど長く生きることができる犬もいます。

まとめ

いかがでしたか?

犬にも腫瘍性疾患が増えていますが、それは愛情をかけて上手に飼って長生きをしてくれたからでもあるのです。

がんができても、獣医療も進化して治療の選択肢も増えてきていますし、治療成績も上がっています。しかし、一方で発見が遅れて治療ができないケースがあるのも確かです。

もし、愛犬ががんになったら…どのように対応をしてあげるのか、いざという時に慌てないように、ご家族で話し合って備えておいてあげるのも良いのではないでしょうか。