犬の骨格や筋肉の特徴とは?人や他の動物と比較して理解しよう【獣医師が解説】

犬もヒトも同じ哺乳類であり、基本的な骨格の構造は同じです。

ただし、二足歩行のヒトと、四足歩行の犬では必要とされる動きが異なるために、細かい部分で骨格や筋肉が違ってきます。

犬にあって人にない骨や、逆に人にあって犬にない骨があったり、骨や筋肉の発達の仕方が違ったりするなど、犬とヒトの骨格には意外と知らない違いもあります。

犬の骨格や筋肉を人や他の動物と比較しながら勉強して、犬の特徴をより詳しく理解してみましょう。

 

犬の骨格の特徴

さっそく犬の骨格にはどのような特徴があるのか、その概要からお話します。

犬の骨の数はヒトの1.5倍

犬の骨の数は約320個と言われています。

超大型犬では50㎏以上、超小型犬だと1㎏程度と体格に大きな差がある犬ですが、体の大きさが違っても骨の数や種類は基本的には変わりません。

しっぽの長さは尾椎の数によって違ってきますが、体の大きさは骨の数ではなく、骨一個一個の大きさによって決まってきます。

犬の骨の数は、206個と言われているヒトの骨の数よりかなり多くなっています。その理由として

  • 尾椎(尾っぽの骨)が20個ほどある(犬種によって異なる)
  • ヒトに比べて歯が多い
  • そのほか細かい骨が多い

といったことが挙げられます。

犬とヒトの骨格で似ている点

脊椎動物と言われる哺乳類は、犬でもヒトでも基本的な骨格の構成は変わりません。

脊椎(頸椎・胸椎・腰椎)が体の軸となり、そこに手足や頭の骨が付いているというのが骨格の基本です。

その他、犬とヒトの骨格の共通点は以下の通りです。

頸椎(首の骨)は7つ

犬もヒトも頸椎の数は7つです。首の短いパグやフレンチブルドッグ、体の小さいチワワなどでも首の骨は7つでヒトと変わりません。

手足の大きな骨

二足歩行と四足歩行という違いから、手足の機能がずいぶん異なる犬とヒトですが、手足の大きな骨の種類や数はお同じです。

手(前足)には、肩から肘の間に上腕骨、肘から手首の間に尺骨(しゃっこつ)と橈骨(とうこつ)という2本の長い骨があります。

また、足(後ろ足)には、腰から膝の間に大腿骨、膝から足首の間に脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)という2本の長い骨があり、これらの構造は犬でもヒトでも変わりません。

犬とヒトの骨格で異なる点

大きな骨格の構造は一緒でも、犬とヒトとは細かい点が違っています。

鎖骨がない

犬には鎖骨がありません。前足に必要な動きが犬とヒトでは違っているため、犬では鎖骨が退化してなくなっています。

鎖骨がない犬の場合は、前足と胸は筋肉のみで繋がっています。

この記事の下の方で、鎖骨がないことによる骨格と筋肉の関係の違いは詳しく解説いたします。

胸椎・腰椎の数や並び方が違う

頸椎の数はヒトと犬で同じですが、胸椎(背骨)や腰椎(腰骨)の数が違っています。

胸椎の数はヒトの12に対し犬では13、腰椎はヒトの5に対し犬で7と、どちらも少しずつ犬の方が多くなっています。

また、ヒトは2本足で直立するため、体の長軸方向(頭から足の方向)に重力がかかります。

2本足でうまくバランスを取るために胸椎が背中側に、腰椎がお腹側に緩やかにカーブする「S字カーブ」があります。

一方、4本足歩行の犬では体の短軸方向(背中からお腹の方法)に重力がかかるため、S字カーブはなく、胸椎と腰椎の間を頂点としてわずかに背中が曲がったような骨の並びをしています。

尾椎がある

犬にあって人にない骨が尾椎(びつい)です。

しっぽのないヒトにも、数個の尾椎が融合した尾骨がありますが、痕跡状でありほとんどわかりません。

一方、犬には6~23個の尾椎があります。断尾をする犬にも、完全に根元から切らず数個の尾椎を残すことが一般的です。

多くの哺乳類には尾がありますが、ヒトは進化の過程で尾が必要なくなり退化したと言われています。

ヒトと同じくコアラやモルモットにもしっぽはありません。

犬にとって尾は命を維持するために必ずしも必要なものではありませんが、自分の感情を伝え、他の犬とコミュニケーションを取るために尾は必要だと言われています。

手足の形が違う

ヒトは足の裏を地面にべったりつける「蹠行」(せきこう、しょこう)という歩き方をしますが、犬は踵や手首をあげる「趾行」(しこう)という歩き方をします。

そのため、骨の種類は同じですが、ヒトの手の平や足の裏に当たる部分は、犬では平たい形をしておらず、長細くなっています。

 

犬の骨格と筋肉

動物を形作り、体を動かす組織として、骨格と筋肉は切っても切り離せない関係にあります。

犬の骨格と筋肉の関係についても詳しく見て行きましょう。

犬とヒトの骨格と筋肉の関係

犬の骨と筋肉の関係は、人と似ている点も違う点もあります。

犬とヒトの共通点

犬も人も骨格があり、さまざまな筋肉がくっついて体を動かすというのは共通です。

骨を動かす骨格筋(こっかくきん)の多くは拮抗筋(きっこうきん)と呼ばれる相対する働きをする筋肉が働くことで体を動かします。

例えば、腕の曲げ伸ばしの場合、上腕二頭筋が収縮することで肘が伸び、上腕三頭筋が収縮すると肘が伸びます。

上腕二頭筋と上腕三頭筋がそれぞれ逆の働きをすることで肘の曲げ伸ばしが行われます。

こういった働きは犬もヒトも同じになります。

ヒトとの相違点

犬とヒトにはいくつかの骨格と筋肉の関係の違いがありますが、大きな違いが鎖骨と肩周りの筋肉です。

犬を飼っている人は気づいているかもしれませんが、基本的に犬の前足は前後の動きしかできません。

犬は前足を開いたりひねったりすることができないのです。

これは犬に鎖骨がないためであり、胴体と前足をつなぐ鎖骨がないことで、犬は前足の複雑な動きができません。

鎖骨がある動物には、ヒトやサルなど以外にもハムスターやウサギなどがいます。

これらの動物は、フードを食べる時に前足を器用に使って、餌をつかむことができます。

また、猫にはかなり退化はしているものの、鎖骨が残っています。

しっかりした鎖骨がないため、前足で物をつかむことはできませんが、前足を内側に向けて抱き着く動作ができます。

犬が木に登れないのに、猫には木登りができるのは、痕跡程度の鎖骨のおかげです。

一方で、鎖骨を退化させることで犬が得た能力が走力です。

鎖骨がないことで前肢の筋肉の伸び縮みを非常に柔軟に行うことができ、一歩の歩幅が大きくなります。

鎖骨を退化させることで、犬は器用さの代わりに走力を身に付けたのですね。

犬とヒトの筋肉

次に筋肉についても詳しく見てみましょう。

犬とヒトの共通点

犬もヒトも筋肉の構造や役割はほとんど変わりません。

筋肉には以下の5つの働きがあると言われており、これらの機能は犬とヒトで共通しています。

  • 体を動かす
  • 姿勢を維持する
  • 熱を産生する
  • 腹部を中心とした内臓を守る
  • 全身に作用する物質を分泌する

犬とヒトの相違点

一方、4本足と2本足である犬とヒトでは、発達している筋肉の種類は違います。

人は手を使う機会が増えたため、腕を持ち上げる僧帽筋(そうぼうきん)や三角筋(さんかくきん)が発達しています。

さらに指先を器用に動かす為の前腕屈筋群(ぜんわんくっきんぐん)なども発達しています。

一方で、前足を力強く使って走る犬の場合には、胸筋(きょうきん)群や広背筋(こうはいきん)など、体をダイナミックに動かすための上半身の筋肉が発達しています。

 

犬の頭の骨格の特徴

ここからは、犬の各部位の骨の特徴を見ていきます。

まずは犬の頭の骨ですが、頭の形は犬種によって大きく異なるため、骨格も犬種間の違いが大きくなっています。

短頭種と長頭種

短頭種であるパグやフレンチブルドッグ、チワワやシーズーなどはマズルと言われる鼻のでっぱり部分がほとんどないため、頭の骨格は丸型になります。

一方で、長頭種と言われるコリーやシェルティー、ゴールデンレトリーバー、柴犬、ミニチュアダックスフントなどは前後に長細い骨格をしています。

頭の骨は頭蓋骨と下顎骨からなる

顔の骨格は頭の上部を覆う頭蓋骨(とうがいこつ)とその下にある下顎骨に分かれます。

長頭種と短頭種では頭蓋骨と下顎骨の長さが大きく異なるため、顔の形が違ってきます。

チワワなど短頭種で顎も小さい犬種では、乳歯の生え変わりがうまくいかない乳歯遺残(にゅうしいざん)が出やすくなります。

また、頭蓋骨の中には鼻の奥に当たる鼻道(びどう)が存在しますが、短頭種ではこの鼻道~気道の通り道がつぶれてしまっていることもあり、呼吸器が弱い子が多くなります。

咬筋

頭蓋骨の一部である上顎骨と下顎骨は顎関節でつながっていますが、そこを支えるのが咬筋(こうきん)です。

咬筋はそれほど大きな筋肉ではないですが、収縮力は非常に強く、犬が獲物を噛んで離さないために大切な筋肉です。

小型犬でも成人男性より噛む力が強いと言われており、ロットワイラーやアメリカン・ピット・ブルなどでは約150㎏とヒトの倍以上の噛む力があります。

上唇挙筋・鼻唇挙筋

上唇挙筋(じょうしんきょきん)と鼻唇挙筋(びしんきょきん)は、犬の感情を示す表情筋の代表です。

目の下から上唇にかけてみられる上唇挙筋、眼の下から鼻にかけて存在する鼻唇挙筋はともに、犬が怒った時に収縮します。

これらの筋肉が収縮すると、上唇を挙げて犬歯を見せたり、鼻にしわを寄せるなど、威嚇の表情に変わります。

ヒトに比べるとこれらの筋肉は犬の方が発達しているようです。

その他の筋肉

顔面にはその他いくつかの筋肉が存在します。目の周りを囲い、瞬きをするための眼輪筋は瞬きのために使われる筋肉です。

また、耳を前後上下に動かすための耳介筋(じかいきん)は犬でよく発達しているため、犬は音のした方に耳を動かすことができます。

また、犬には比較的表情筋がよく発達していると言われています。

威嚇の表情だけでなく、うれしい時に口元が緩んで目が細くなったりするのもよく発達した表情筋のおかげであるようです。

犬に比べて猫の表情筋は発達が弱いため、表情が読み取りにくいと考えられます。

 

犬の肩の骨格の特徴

先ほど書いた通り、犬の肩には鎖骨がなく、筋肉が大きく発達しています。

人はもちろん、猫に比べても前肢の筋肉は発達しています。

素早く走る時、鎖骨のある猫は前足を前後に動かす能力が犬より劣る分、脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)という筋肉をめいいっぱい使います。

脊柱起立筋は胸椎や腰椎に沿って伸びる長い筋肉ですが、この筋肉を使って猫は弓のように体をしならせて走ります。

この走り方は瞬発力があり、スピードを出せるものの、大きなエネルギーを使うため長時間走ることはできません。

そのため、猫は短距離ランナー向きの走りをします。

一方、犬は鎖骨がない前足を遠くに伸ばして走ることで、エネルギーの節約をしながら走ります。

犬ぞりの犬が長時間続けて走ることができるのは、発達した肩回りの筋肉のおかげなんですね。

犬の下半身の骨格の特徴

臀部(でんぶ=お尻)や後肢の骨格や筋肉は人と犬で大きく違いません。

足先では記事の最初の方に書いた通り、犬では足の裏がなく、つま先立ちのような形をしています。

そのため、常につま先立ちができるよう、特に大型犬ではふくらはぎの筋肉が発達しています。

また、犬の臀部の筋肉は人に比べて発達しており、ジャンプ力がかなり強いです。ジャンプ力のギネス記録はなんと172㎝。

日本人男性の平均身長くらい跳んでしまいます。

ジャンプ力は犬種によって大きく異なり、チワワやプードルなどの小型犬で筋肉が少ない子はあまり高く飛べませんが、特にサイトハウンド系の犬(グレーハウンドやアフガンハウンドなど)はジャンプ力が強いことで有名です。

サイトハウンドではありませんが、ジャックラッセルテリアも強靭な後肢の筋肉を持っており、小さくても非常にジャンプ力の強い犬種です。

犬種ごとの骨格の違い

犬は犬種によって骨格の大きさはもちろん、体型も大きく違います。最後に犬種ごとの骨格の違いを見ておきましょう。

短頭種

短頭種は鼻が短く丸い顔をつくる頭の骨の形が特徴ですが、他にも骨格に特徴があります。

それが、胸椎や腰椎などの脊椎です。

パグやフレンチブルドッグ、イングリッシュブルドッグなどの短頭種では、多くの犬で脊椎奇形や脊椎欠損が見つかります。

健康な子でもレントゲンで偶発的に見つかることがありますが、腰痛や後ろ足のマヒを伴うこともあります。

脊椎の異常がある場合には、腰の病気が増えるので、太らせないことに注意をし、ジャンプや激しい運動は極力控えた方がいいでしょう。

短足種

ダックスフント(スタンダード、ミニチュア)やコーギーなど胴長短足の犬種は短足種と呼ばれることもありあます。

もともと、アナグマやウサギなど細い穴に入っていく獲物を捕らえるために脚を短く品種改良されたため、骨格も特徴的になっています。

短い足の骨は他の犬種に比べて太く、やや湾曲が強くなっています。

足が弱そうと思われますが、体格の割に骨太であるため骨折は少ない犬種になります。

ただし、胴が長い分、腰を痛めることが多く、椎間板ヘルニアなど脊椎・脊髄疾患には注意が必要です。

足が細い犬

イタリアングレーハウンドやボルゾイ、プードルなどの犬種は足が細く長くなっています。

もちろんその分骨も細く、骨折などのリスクが高い犬種ですので、落下事故などには十分注意が必要です。

これらの犬種は軽い体を生かして瞬発力の高いスピードの速い走りを得意としています。

ドッグレースにイタリアングレーハウンドが出ているのもそのためですね。

狼犬

狼と大型犬を組み合わせたものを狼犬(ウルフドッグ)と呼びます。

狼犬は、狼の骨格の特徴である太くて強い骨と、大きく強靭な筋肉を引き継ぎます。

しっかりした骨格と筋肉を持っているため、力や走力が強く、噛む力も非常に強くなります。

立ち耳の犬

耳の形は耳介軟骨と呼ばれる軟骨によって決まっています。

軟骨が曲がっていたり、耳が大きく重くてその重量をさえきれない場合には、垂れ耳になります。

まとめ

犬とヒトの骨格には共通点は多いものの、違っている点も意外と多いです。

犬は走るために進化してきたと言ってもいいほど、早く長く走るために適した骨格をしています。

一方で、その役割に適した進化を遂げた結果、同じ犬でも犬種によって骨格が違っており、そのバリエーションは豊富です。

この記事を参考に体の奥に隠れて見えない骨格や筋肉を想像しながら、愛犬をよくよく観察してみると、新たな発見があるかもしれませんよ!

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ABOUTこの記事をかいた人

後藤大介

岐阜大学農学部・獣医学科(現応用生物科学部・共同獣医学科 ) 卒業。大阪・北海道の動物病院に勤務し、2018年、岐阜市にアイビーペットクリニックを開業。生まれ育った地元で、ペットと家族の幸せのためのお手伝いをしたいと考えています。病気の治療だけでなく、ペットの健康のための情報発信や、地域の飼い主さん同士が交流できるような動物病院を目指しています。