徹底解剖!驚異の身体能力をもたらす猫の骨格のひみつ

ネコ科動物は哺乳類最強のハンターと言われるほどの、優れた身体能力を持っています。

それはイエネコにもしっかり引き継がれ、私たち飼い主も軽々と冷蔵庫に飛び乗ったり、ありえない寝相で寝たりする愛猫に驚かされることがありますよね。

そんな猫の身体能力は、強くて柔軟な筋骨格によってつくりだされています。

今回は、人や犬と比べながらしなやかで強靭な猫の骨格や筋肉のつくりについて詳しくお話します。

 

猫は森の「待ち伏せ型」ハンター

およそ4000万年の進化の歴史の中、猫は深い森にすみ、単独で狩りをするハンターとして進化してきました。

猫族の狩りは、森の中の木陰に身を隠して獲物が近づいてきたところを急襲する、「待ち伏せ型」の狩猟スタイル。

このような猫の生活環境や狩猟スタイルが、長い時を経て優れた身体能力を築き上げてきたのです。

いったい猫にはどのような能力が備わったのでしょう。具体的にみてみましょう。

 

1.獲物に飛びかかるための優れた「瞬発力」

猫の、助走なしで自分の何倍もの高さに軽々跳ぶジャンプ力や、一瞬でトップスピードに達するダッシュ力は、優れた瞬発力によるもの。

それは次のような体の特徴によって生み出されています。

柔軟性が高い

獲物に一気に飛びかかる瞬発力を生むには、体を丸め込み、一気に解き放つという動作が必要です。

その体を丸める柔軟性をもたらしているのが、猫の長い胴体。猫の背骨の数は人よりも胴椎(胴体部分の背骨)が1本、腰椎(腰部分の背骨)が2本多く、さらに1本の背骨の形が細長い形をしています。

これが背中の柔軟性をつくっており、さらに瞬発力を生んでいるのです。

この、長い胴体が丸くなる感じが「猫背」といわれる由縁なのかもしれませんね。

猫の柔軟性は、もう一つの利点をもたらします。

それは、高い所から降りるときにどんな体勢になったとしても最後は体をひねって足から着地でき、さらに着地の衝撃を柔らかく吸収できること。

高い所への登り降りは、森で生活するのに重要な動作です。

獲物を捕らえるだけでなく、日常生活でも柔軟性が必要だったことがうかがえます。

筋肉のなかの「白筋」が発達

筋肉には大まかに「収縮はゆっくりだが疲れにくい」赤色の筋肉と「速く収縮できるが疲れやすい」白っぽい筋肉があり、瞬発力は主に白っぽい筋肉によって生み出されます。

猫の筋肉の半分以上はこの白っぽい筋肉でできおり、特に後ろ足の筋肉はよく発達しているため、猫は素晴らしい瞬発力を持っているのです。

そのいっぽうで白い筋肉は疲れやすいため、猫は持久力が必要な長距離走がちょっと苦手。

ちなみに犬は猫とは真逆で「収縮はゆっくりだが疲れにくい」赤い筋肉が多く、瞬発力がそれほどでもない代わりに長時間走り続けることができます。

実際犬は猫と違って集団で獲物を追いかけまわし、疲れさせてから捕まえる「追跡型」ハンター。猫とは対照的な狩りの方法を行うからです。

 

2.獲物を捕らえるための、強靭でよく動く「前足」

犬は獲物が疲れたところを襲うため、基本的に噛みつくだけで獲物を捕らえられますが、元気に逃げまどう獲物を捕まえなければならない猫は、口だけでなく前足も使って獲物をしっかり抱え込んで倒さなければなりません。

この前足で獲物を捕まえる動作を可能にしているのが次のような特徴です。

ひねることができる腕

獲物をしっかりとつかむには、腕をひねって手の平を内側に向ける必要があります。

その動作をおこなうには、肘関節が柔軟でなければなりません。

2015年に報告された研究論文によると、腕をひねることができるネコ科動物の肘関節の断面は長方形をしていて、一方、腕をひねることができない犬の肘関節は正方形に近いのだそうです。

これは猫の長方形の肘関節が柔軟な腕の動きを可能にしているという意味です。

また、犬には鎖骨がまったくありませんが、猫には小さいながらも残っており、これが腕のひねりに関係しているとも考えられています(同じネコ科でも走行性の強いチーターは鎖骨が退化して失われています)。

参考文献:B. Figueirido他(2015)Habitat changes and changing predatory habits in North American fossil canids, Nature Communications 6, Article number:7976, doi:10.1038/ncomms8976

出し入れ自由なカギ爪

獲物をしっかりつかむためには、手だけではなく鋭いカギ爪があったほうが断然有利です。

犬のように、出しっぱなしの爪では走っている間に擦り減ってしまうので、獲物の分厚い皮膚に突き立てることができません。

猫はカギ爪という大切な武器を常に鋭く保つため、そして獲物に音を立てずに忍び寄るためにも、使う時だけ出してふだんは引っ込んでいるという、出し入れ自由な爪を獲得しました。

爪の出し入れは、指の骨と爪とをつなぐじん帯と腱によって行われます。

ふだんは骨の上側にあるじん帯が収縮していて爪が引っ込み、爪を使うときには、骨の下側にある腱が後ろ側に引っ張られることで爪が出る、という仕組みです。

3.暗闇の中でも獲物をみつける目

猫の頭骨をみると、眼窩(目の穴)がとても大きいことに気づきます。

実は猫の眼球の大きさはほぼ人間と同じ。小さな頭骨に人と同じサイズの眼球が入ると考えると、どれだけ猫の目が大きいかがわかりますよね。

これほど大きい理由はやはり「集光」のため。猫は薄暗い森の中で、しかも夜行性の草食動物を獲物にしてきました。

そこで、暗闇のわずかな光でも獲物が見えるよう、目が発達したのです。

眼球の大きさに加えて瞳孔も大きく開き、さらに眼球の奥にあるタペタム層という光を増幅する反射板があることで、猫は人の7分の1程度の光でも獲物を見つけることができるようになりました。

4.木登りする能力

さきほどお話した、獲物を捕まえるために腕をひねる動きが木登りにも応用できます。

手のひらを内側に向け、前足でしっかりと木をつかんで登ることができます。

また、鋭い爪も、木登りするときにとても役に立ちます。木登りの時は後ろ足もしっかり使いますが、こちらも前足同様ふだんはしまっているので鋭く保たれています。

5.狭い所でも通れる能力

犬の肩甲骨が体の横に広がってついているのに対し、猫の肩甲骨は首の後ろ側に縦方向についており、さらに、人間のように鎖骨とは関節していないために肩の柔軟性も高くなっています。

猫が頭さえ入れば狭い所でも通り抜けられるのは、このような理由からです。

6.究極の「肉食」への適応

猫のなかまはストイックに肉食を守り、肉食動物の中でも一切植物食をしない究極の肉食に適応し、次のような能力を発達させてきました。

大きな側頭筋(あごを開閉する筋肉)

犬もそうですが、猫も噛む力を支えている側頭筋が人間よりもよく発達しています。

ただしイエネコは体が小さいので、絶対的な数値でいえばそれほど強い力ではありません。

短い鼻先

猫の顔が丸く見えるのは鼻先(マズル)が短いからですが、これは歯の数と関係しています。

植物食を一切しない猫は、他の肉食動物と比べても極端に歯の数が少ないことが特徴です。

例えば雑食もする犬の歯の総数は42本ですが、猫は30本しかありません。この差は、食べ物をすりつぶすための臼歯の数の差です。

人からするとなんとなく肉のほうが固そうですが、実は調理していない植物というのは繊維質でとても固く、消化するには細かくすり潰さなければなりません。

そのためには表面積の大きな「臼」の形をした臼歯が必要となります。

逆に肉は消化が良く、丸飲みしてもかまいません。

つまり、猫には臼型の大きな臼歯は必要なく、尖った形の臼歯しかないうえ、数も少ないのです。

その結果、猫の口は小さく、ひいてはマズルも短くなったというわけです。

まとめ

丸くてかわいい顔も、へんな寝相も、カーテンに登られてしまうのも、進化の歴史の中で猫が独自に獲得してきた身体的な特性からきていたのですね。

おちゃめで野生のかけらもない、とつい思ってしまう私たちの愛猫も、実はこのような特性をしっかり受け継いでいるのです。

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NEKOCLIP

博物館に20年勤務していた古生物学系元学芸員。猫は絶滅してしまった化石猫から イエネコ、ライオンに至るまで全部大好き。猫飼い歴ン十年の猫おばちゃんです。 飼育のお悩みから進化学に至るまで、幅広い情報と猫の素晴らしさをわかりやすく お伝えしようと思います。理学修士、ペットシッター資格、愛玩動物飼養管理士2級。 ペット用品販売会社での勤務経験もあります。