犬のリンパ腫はどんな病気?初期症状を知って早期発見を!【獣医師が解説】

 

犬のリンパ腫とは

犬のリンパ腫とは

リンパ腫とはどんな病気なのでしょうか。

見ての通りなのですが、分かりやすく言うとリンパ球の腫瘍です。

リンパ球についてはよく分からない、という方もおられると思いますので、まずはリンパ球の種類とはたらきについて少しお話をしたいと思います。

リンパ球にはいろいろな種類がありますが、大まかに言うと免疫を担当して体を守ってくれる細胞です。

体に入ってくる様々な病原体や異物、そして癌細胞などに対して攻撃をしかけ、体に悪影響が出ないようにしてくれます。

また、体外から侵入した病原体や異物に対して抗体を作り、病原体や異物から体を守ってくれます。

リンパ球はリンパ管というリンパ球だけが移動する特別な道路を使い、身体中を巡ってパトロールをしています。

このリンパ管には、要所要所に関所があります。それがリンパ節です。

リンパ節の主な働きは、分かりやすくいうとフィルターです。パトロール中に逃した病原体など体にとって有害なものをキャッチし、これ以上先に進ませないために処理をします。

リンパ腫ではリンパ節が腫れてしこりになりますが、このようにリンパ球は全身に分布しているので、リンパ球が腫瘍化してしまった時にはたとえ体の一箇所だけが腫れていても、一部の例外を除いて全身疾患として扱います。

つまり、転移のない場合の乳腺腫瘍などのように、しこりを取り除けばそれで解決するわけではありません。

原因

犬のリンパ腫の原因は不明です。

猫と同様にレトロウイルスというウイルスの感染も疑われているのですが、確認されておらず、明確ではありません。

関連性は弱いのですが、可能性のある要因としては、免疫機能不全や免疫機構不全、染色体異常、タバコや農薬などの曝露、などが挙げられます。

タバコについては、飼育者に喫煙歴がある場合、ペットにもタバコの影響は及び、特に肺への影響は強いと報告があります。

 

リンパ腫の病型

リンパ球は全身に分布しているので、体のどの部位にも発生する可能性はあります。

しかし、腫瘍が発生する部位は決まっており、病変が出る部位により種類分けができます。

そして、腫瘍の発生部位によって特徴があります。

犬のリンパ腫では多中心型リンパ腫が大部分を占め、この他、消化器型リンパ腫、縦隔型リンパ腫、皮膚型リンパ腫などがあります。

さらに、主にどの種類のリンパ球が腫瘍になるのか、そしてその悪性度によって細かくタイプ分けをします。

それぞれについて解説をしていきます。

解剖学的な分類

多中心型リンパ腫

犬のリンパ腫で最も多いタイプのリンパ腫です。

体表リンパ節に病変が現れるので、しこりとして触知ができるようになります。

体表リンパ節というのは首の周り、後肢の付け根、膝の後ろなどに位置していて、体の表面に近い場所にあり、腫れた時に気付きやすいです。

この体表リンパ節が1箇所〜複数箇所腫れるのが特徴です。

消化器型リンパ腫

消化管でも、主に小腸に病変が出ます。

腸の粘膜下にあるリンパ組織にリンパ球が増殖し、粘膜が肥厚して本来の機能が果たせなくなります。

進行すると、腸を支配しているリンパ節が腫れたり、さらに進行すれば脾臓や肝臓に転移をすることもあります。

縦隔型リンパ腫

胸腔内に発生します。胸の中でも、ちょうど心臓の頭側にあるリンパ節が腫瘍化するタイプになります。

初期には症状が出にくいこともあり、呼吸困難などの症状が出た時にはすでに腫瘍が大きくなっていることが多いです。

皮膚型リンパ腫

皮膚に病変が出ます。初期には皮膚炎と区別がつきませんが、どんな治療にも反応しにくい難治性の病変として症状が出ます。

たとえ診断がついて治療に入っても、なかなか治療効果が上がらず、痛みや感染のコントロールができないために安楽死されるケースもあります。

この他、脳や脊髄などの中枢神経、腎臓、脾臓などに発症することもあります。

組織学的免疫表現型による分類

リンパ腫では特有の形態と免疫表現型を持つリンパ系細胞が増殖します。

人のリンパ腫でも多くの分類があり、犬でも人の分類を適用しています。

まず、腫瘍の悪性度を、悪性度の低い低グレード、悪性度の高い高グレードに分類します。

低グレードでは細胞が増えるスピードが遅く、抗がん剤が効きにくいタイプですが、進行が遅く生存期間も長いです。

高グレードでは、細胞の分裂スピードが早く、抗がん剤が効く可能性も高いのですが、進行も速いです。

さらに、腫瘍になるリンパ球の種類により、B細胞型、T細胞型、いずれにも属さない細胞型などと分類します。

この細胞型分類は予後判定に重要で、犬の多中心型リンパ腫ではB細胞型の割合が高く、皮膚型リンパ腫ではT細胞系の細胞が由来になっていることが多いです。

 

主な症状

リンパ腫ではどのような症状が出るのか、リンパ腫のタイプごとに、初期症状〜末期症状まで主なものをご紹介していきます。

多中心型リンパ腫

初期症状

首の周り、特に顎の下、脇の下、内股や膝の後ろなど、体表リンパ節が腫れてしこりができます。

首回りや顎、耳の下のしこりは頚部のリンパ節が腫れている可能性があります。

首の周りのリンパ節は頭部を守るための大切な関所なので、たくさんのリンパ節が存在します。

リンパ節は歯周病や外耳炎でも腫れることはありますので、リンパ節の腫れがリンパ腫に結びつくわけではありませんが、複数のリンパ節や他の部位のリンパ節も腫れている場合にはリンパ腫の可能性が高いです。

脇の下、内股などは炎症性に腫れることはあまりありません。ひどい皮膚病などがないのに腫れている場合には心配です。

初期段階では、リンパ節の腫れだけで、犬に全身的な臨床症状は出ていないことが多いです。

中期症状

体表リンパ節の腫れに加えて、元気や食欲が無くなってきている、熱がある、などの全身的な症状が見られるようになります。

リンパ節の腫れが大きくなる、腫れているリンパ節の数が増えるなどもみられます。

末期症状

さらに元気や食欲が落ちます。

貧血などもみられるようになってきます。リンパ節の腫れもどんどん大きくなり、周囲の組織が圧迫されて障害が出るようになります。

例えば首のリンパ節の腫れが喉を圧迫すると、呼吸困難になったり、食べ物が飲み込みづらくなったりします。

治療効果が出ない場合には、積極的な治療を行うより、緩和治療をし、患者の苦痛を取り除くことを優先させます。

消化器型リンパ腫

初期症状

食欲不振、嘔吐や下痢などの消化器症状が出ます。初期には好きなものやオヤツは食べる、など一見ワガママなのか、具合が悪いのかわからないこともあります。

日によってムラがあり、間欠的な症状を示すこともあります。初期の段階では胃腸炎や消化不良などと鑑別がつきにくく、確定診断は難しいです。

中期症状

初期にみられた食欲不振、嘔吐、下痢が継続し、体重が減ってきます。

中期症状が出ると心配になり、動物病院へ受診する方が増えます。獣医師側も精密検査を勧める病期です。

血液検査で、血液中のタンパク質が減少していることが多いです。

消化管だけでなく、お腹の中のリンパ節が腫れてきます。

末期症状

食べ物を受け付けなくなります。

それと同時にかなり栄養状態も悪くなり痩せてきます。

貧血や黄疸がみられることもしばしばあります。

触診で、お腹のしこりや硬くなった消化管が触れることもあります。

縦隔型リンパ腫

初期〜中期症状

ごく初期にはこれといった症状が出ない、または軽いため気づかないことが多いです。

腫瘍の増大に伴って、元気や食欲が落ち、呼吸数が増える、お腹で息をして苦しそうなど、呼吸器系の症状が出るようになります。

胸水がみられることもあります。

中期〜末期症状

明らかに呼吸の様子がおかしい、お腹で息をしている、呼吸数が増えるなどの症状が出ます。

胸腔内のスペースは限られていますので、腫瘍の増大とともに、胸腔内の臓器、主に肺や気管、気管支が圧迫され、呼吸障害が出るようになります。

食欲がない、元気がない、など全身症状も顕著になってきます。

腫瘍が原因で胸水が溜まることもあり、胸水が溜まれば呼吸状態がさらに悪くなります。

皮膚型リンパ腫

初期症状

フケや軽い赤味が出て脱毛かみられるなど、一見、感染性の皮膚炎のようですが、抗生物質や消炎剤、シャンプー療法など、一般的な治療に反応しません。

中期症状

病変が広がってきます。病変は強い赤みを帯びたり、鱗屑が激しくなる、隆起して結節を形成するなどの変化がみられ、やがて潰瘍を起こします。

末期症状

潰瘍化した病変部は痛みを伴い、感染を起こします。

しかし、痛みや感染のコントロールが難しく、一般状態も落ちてきます。

 

検査や治療

検査方法

次はリンパ腫が疑われた時に検査と診断方法についてです。

どの型のリンパ腫でも、一般身体検査、血液検査、レントゲン検査、場合によっては骨髄検査を行います。

リンパ腫のステージ分け、進行度を評価するために必要だからです。

それと同時に、リンパ腫であることの確定診断をする必要があります。

リンパ節の腫れがある場合には、腫れのあるリンパ節から針で細胞を採り、専門の検査機関で調べてもらいます。

診断がつかない場合には、リンパ節の一部または全体を切除して検査をします。

消化器型リンパ腫が疑われる場合には内視鏡や手術により腸の一部を採り、腸の組織を専門の検査機関で検査をします。

皮膚型の場合も同様に病変部の一部を採り検査を行います。

縦隔型リンパ腫の場合には、胸部のレントゲンで胸腔内の腫瘍が確認できます。

胸水が溜まっている場合には、胸水を抜き、その中に含まれる細胞成分で検査を行います。

どんな場合にも、『見た目』や『症状』ではなく、疑わしい場所の細胞や組織を採って、専門機関での検査をします。

治療

それでは、リンパ腫だと診断がついたら、どのように治療を進めていくのか、その治療法について進めていきます。

多中心型リンパ腫・消化器型リンパ腫・縦隔型リンパ腫

通常は化学療法、つまり抗がん剤を用いて行います。

効果を上げるため、数種類の抗がん剤を組み合わせて数ヶ月間に渡って治療を行うことが一般的です。

野球でも、ピッチャーがストレートばかりを投げていては、バッターも慣れてどんなに速い球でも打たれるようになりますから、カーブやスライダー、フォークといった変化球を混ぜながら投球しますよね。

腫瘍細胞も同じです。同じ薬だけを使い続ければ、いずれ効かなくなります。

そのため、多剤併用プロトコールと言って、リンパ腫に効果のあるお薬を数種類組み合わせて治療をします。

治療を行っても、乳腺腫瘍などのような固形癌とは違い、腫瘍を手術で完全に取り除くことができないため、腫瘍細胞を完全にゼロにすることはできません。

このため、治療に反応して、しこりが消失しても『完治』ではなく『寛解』という言葉を使います。

治療の目標は完全寛解で、完全寛解した状態をより長期間維持できることを目指します。

無治療だと余命が半年未満というデータもありますが、治療効果がうまく出れば完全寛解を望め、完全寛解の状態を1年以上維持することも可能です。

予後は腫瘍になる細胞がB細胞である方が良好であると言われています。

これは、B細胞型のリンパ腫の方が抗がん剤治療に対して効果を示しやすいからです。

また、治療開始時に発熱や食欲不振などの全身症状が出ていないということも良好な予後には大切な因子になっています。

皮膚型リンパ腫

皮膚型リンパ腫は一般的に多中心型リンパ腫とは異なり、化学療法にはまず反応しません。

そのため、痛みと二次感染のコントロールが中心となります。

節外型リンパ腫

リンパ節以外の部位にできるリンパ腫でも、多中心型リンパ腫の病変の一部としてみられるものではない、独立した病変の場合には全身の化学療法をせず、病変部だけの治療のみを行うこともあります。

その場合には、外科手術や放射線治療が選択され、効果を示します。

レスキュー治療

リンパ腫の治療が成功しても、残念ながら、大抵はその後再燃します。

再燃が見られた段階で、腫瘍細胞は化学療法剤に対して抵抗性を示していることが多く、つまり、初期治療で使ったお薬が効きにくくなっていることが多いのです。

再燃がみられたら、まずは初期治療で使ったプロトコールを開始しますが、治療効果の出る可能性と反応の長さが初期治療の時の約半分であると言われています。

治療をしていても、病状の進行が見られる場合には、レスキュープロトコールに入ります。

レスキュープロトコールには単剤のもの、多剤併用のものなどいろいろな種類がありますが、やはり初期治療ほどの効果が期待できないのが現実です。

家での処置や気をつけること

抗がん剤での治療中は免疫力が下がります。

見た目は元気そうにしていても、長時間の散歩やシャンプー、トリミングなどは控えましょう。

シャンプーやトリミングを行いたい場合には、主治医に相談し、許可を得てからにしてください。

食事も大切です。

下痢や嘔吐があった場合、抗がん剤の副作用かどうかの判断がつかなくなることがありますし、抗がん剤を投与できなくなることもあります。

また、食欲の有無も犬の状態把握のバロメーターになりますので、治療中は普段食べている食餌を与え、あれこれオヤツを与えないようにしてください。

お薬をご自宅で投与する必要がある場合もあります。

その際には、犬に確実にお薬を投与し、その確認をしてください。

投与に失敗し、人が誤飲したら大変です。

また、お薬を投与した当日〜3日間程度は排泄物から抗がん剤が排泄されます。

排泄物を片付ける際には、できれば手袋をして、排泄物に触れないように注意してください。

特に小さなお子様のいるご家庭では、お薬の誤飲や犬の排泄物の管理には注意をしてあげてください。

緩和ケア

細胞型やリンパ腫の病型によっては、治療効果が上がらない場合もあります。

そのような場合には、対症療法を行い、患者のQOL( Quality of life 生活の質 )を上げることを目標にします。

痛みがあれば鎮痛剤を使用し、食べられなければ点滴を行う、胸水が原因の呼吸困難があれば胸水を抜く、酸素室に入れてあげるなど、その時の患者の状態に応じた処置を行いできる限りの苦痛を取り除くようにします。

QOLを上げることで、より苦痛のない状態で過ごすことができ、その結果として生存期間の延長が望めます。

予防

原因がはっきりとしていないため、確実に予防できる方法があるわけではありません。

しかし、リンパ腫に限らず、腫瘍性疾患では遺伝子が変異していることが多いため、遺伝子変異を起こさせないようにすることが必要であると同時に、腫瘍細胞を排除するための免疫力を高めることも大切です。

しかし、遺伝子変異の予防や免疫力を高める方法が獣医学的にも確立できていればよいのですが、確実に効果を上げるような確実な方法も現状では見つかっていません。

まとめ

大切な愛犬には病気にはなって欲しくないものですよね。

しかし、犬にも腫瘍性疾患は年々増加しています。リンパ腫は珍しい病気ではなく、治療法も確立してきている病気ですが、罹患すれば完治を望むことが難しい腫瘍でもあります。

しかし、良好な予後も期待できないわけでもありません。

治療効果や予後判定には、リンパ腫の病型と免疫表現型の確実な診断が必要になります。

疑わしい症状があった場合には、できるだけ早く、適切な診察を受け、治療に入ることが大切ですね。

そして、予防方法は確立していませんが、タバコの煙への暴露は犬にも有害だという報告はありますので、飼い主さんが喫煙される場合には、暴露しないような配慮をしてあげてください。

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