愛犬に幸せな老後を!犬の老衰とその対策【獣医師が解説】

犬の寿命はここ10~20年で大きく伸び、10歳を越えるような高齢犬も非常に増えています。

大好きな愛犬と過ごせる時間が長くなることは喜ばしいことですが、長生きすればするほど、愛犬の老化に伴い気を付けないといけないことも増えてきます。

今回は、犬の高齢化により直面すべき問題「老衰」についてお話しします。

今高齢犬を飼っている方はもちろん、まだ若い犬を飼っている人も今後のために参考にしてみてくださいね。

 

老衰とは

老衰とは、体全体の老化に伴い心身の能力が落ちてくる状態をいいます。

高齢で弱ってきている状態をすべて老衰と呼ぶわけでなく、病気によって弱ってきている場合には老衰ではありません。

加齢による老衰では以下のような症状が出て来ることが多いです。

耳が聞こえづらくなる

犬は加齢に伴い耳が遠くなる子が非常に多いです。

「呼んでも来なくなった」とか「帰ってきても気づかない」などという場合には、耳が聞こえづらくなっている可能性が高いです。

耳の近くで手を叩いてその反応を見ることで、愛犬の耳が聞こえているかどうかをある程度判断することが可能です。

目が悪くなる

物が見えづらくなることも、老衰の一つの症状としてはよくみられます。

犬では白内障も多いですが、加齢性の変化である核硬化症という目の病気も多くなります。

物にぶつかる頻度が増えたり、暗い場所を恐る恐る歩くようになる場合には、眼が弱ってきている証拠です。

ただし、これらの症状は病気で起こることも多いため、気付いた場合には早めに動物病院で診てもらうことをおすすめします。

実は眼ではなく、脳腫瘍が原因で目が見えていないといったメースも珍しくありません。

足腰が弱くなる

高齢になると筋肉が落ちたり、関節の病気が増え、足腰が弱くなってきます。

特に大型犬では後ろ足から立ちにくくなり、ふらつきが出たりすることが多いです。

立っているときに足が震えていたり、歩くスピードが遅くなる場合には、足腰の老化が起きている可能性があります。

最近では、犬用の関節の薬やサプリメントが充実してきているので、足腰の痛みや負担を減らすためにも一度動物病院で相談してみましょう。

 

老衰と病気は違う

単純な老衰は多くはない

動物病院で診察をしていて、「○○という病気ですよ」と伝えると、「年のせいだと思っていた」という言葉をよく耳にします。

高齢の子で調子が悪いと、加齢による老衰のせいだ思っている飼い主さんが多いのではないでしょうか?

老衰は特定の病気ではなく、全身的な細胞の老化による心身の衰弱です。

病気がある場合はその治療によって元気を取り戻したり、長生きできたりすることは少なくありません。

また、病気による痛みや辛さから全然元気がなくなってしまう子もいますが、完治はさせられない病気だとしても、苦しみを取ってあげることでQOL(生活の質)を向上できるケースは多いです。

高齢の子が弱ってきたときに老衰だと決めつけてしまうと、せっかくまだまだ元気で長生きできる可能性があっても、その可能性の芽を摘んでしまうことになります。

高齢の子を飼っている場合には勝手にあきらめず、本当に老衰なのかどうか、動物病院で診察をしてもらうようにしてくださいね。

老衰と間違えやすい病気

飼い主さんが特に老衰と勘違いしやすい病気は以下の通りです。

  • 心不全(僧帽弁閉鎖不全など)
  • 甲状腺機能低下症
  • 変形性関節症
  • 腎不全
  • 悪性腫瘍など

これらの病気では、じわじわと元気や食欲がなくなることが多く、老衰と勘違いされやすいようです。

病気によっては薬などの治療によって劇的に元気になる病気もあります。

まずはしっかり動物病院で診てもらうことが大切です。

 

老衰はいつごろから始まる

加齢による衰えの先に老衰はありますが、その始まりはその子によって大きく異なります。

老衰の始まりは犬の大きさによって以下の年齢が目安になります。

大型犬の場合

大型犬では、6歳を過ぎたくらいから加齢による衰えを感じることが多くなります。

大型犬では、運動量の低下や後ろ足が弱いなどの症状で加齢による衰えに気付くことが多いです。

中型犬の場合

中型犬の場合には、10歳前後で身体能力の衰えを感じることが多いです。

特に柴犬などの日本犬では耳が聞こえづらくなる子も多く、感覚が鈍ることが老化のサインになるケースは多いようです。

小型犬の場合

小型犬はもともと体が軽く、筋肉による衰えの影響が少ないため、加齢に伴う老衰をあまり感じないことも多いです。

12,3歳になって初めて年を取ったなと感じることも多いようですね。

耳や目の機能の衰え以外には散歩に行く距離が短くなったり、寝ている時間が長くなるなどの症状が、老衰の始まりであることが多いです。

 

老衰を進めないために老化に早く気付く方法

老衰は進んでしまうと元気な状態に回復させたり、ケアをするのが大変になってしまいます。

できるだけ早めに加齢による変化に気付き、老衰を進めない対策を取ることが大切です。

健康診断は年二回がおすすめ

老化は目に見える形で進むこともあれば、体の奥でじわじわと進むこともあります。

特に内臓の老化は初期段階ではほとんど気付くことができず、気付いた時にはすでに相当進行してしまっているということになります。

そこで大切なのが健康診断です。

犬は人の4~7倍早く年を取ると言われています。

つまり、毎年4~7歳年を取るのです。一般的に若い犬でも1年に1回の健診を進めていますが、7歳を超えた中年~高齢の犬では半年に1回の健診をおすすめします。

それ以外にも気になることがある場合には早めに動物病院で相談した方がいいでしょう。

効果的に健診を受けるためには以下のポイントを守るようにしましょう。

  • できる限りかかりつけの動物病院を作っておき、愛犬の状態を知っておいてもらう
  • 飲水量や食餌量、体重などの変化をメモしてしっかり動物病院で伝える
  • 健診結果をしっかり聞いて理解し、何に気を付けておくべきかを把握しておく
  • 気になる症状がある場合には、動画を撮って持って行く

食欲のチェック

食欲は健康状態のパロメーターです。

  • 食餌量
  • 食餌スピード
  • 口の動き

などをチェックしておくことで、老衰だけでなく病気の早期発見にもつながります。

食欲のチェックは健康状態を把握するための最も基本的なものですので、しっかりみておきましょう。

臭いの変化

高齢になってくると、体臭にも変化が起こります。その理由は

  • 歯石や歯周病など口の病気
  • 胃腸や肝臓、腎臓など内臓の病気
  • グルーミング(自分で体を舐めてキレイにする動作)の減少
  • ホルモンや皮膚の状態の変化

などが原因となります。

体臭の変化は単なる加齢だけでなく、病気によって起こることもあるため、体臭が変化したと感じた場合は、一度動物病院で相談してみましょう。

糞や尿の変化

高齢犬では便や尿にも異常が出ることがあります。

これらの変化は、加齢による生理的なものであることもありますが、病気によって起こる変化であることもあります。

便の変化

  • 硬さ
  • におい
  • 血が混じっていないか

尿の変化

  • 1日の尿量
  • 尿の回数
  • におい
  • 排尿にかかる時間

散歩の様子

散歩の様子も愛犬の健康状態を把握するためにしっかりチェックしておくといいでしょう。散歩で注意しておきたいのは

  • 歩くスピード
  • すぐに息切れをしないか
  • 歩き方

などです。散歩のときには、筋骨格系の老化や心肺系の機能低下などの影響を受けることが多いです。

老衰の犬と生活するために気をつけること

住環境

老衰が始まると身体能力が落ちてきますので、若いころと同じような住環境では、さまざまな不自由が出てきます。

できる限り快適に生活できるように以下のような点に気を付けておきましょう。

  • 段差を極力なくす
  • 階段の昇り降りの必要をなくす
  • 床を滑らないようにする(カーペットなどをひく)
  • できるだけ快適な温度設定
  • 寝どこを柔らかくする(床ずれ防止)

食餌

体が弱っても、しっかりフードを食べることができ体重が落ちてこない場合には、特にフードを変える必要はありません。

しかし、鼻が利きにくくなったり、歯が弱ってくるため、食欲が落ちたり、普通のドライフードが食べられなくなることもあります。

その場合には以下のような工夫をしましょう。

  • お湯でふやかす(食べやすい・においがよくなる)
  • ウェットフードにする
  • 肉の煮汁などをかける
  • 回数を増やす(消化に優しい)

トイレ

高齢になると、トイレを我慢できずに粗相してしまったり、漏れてしまったりすることがあります。

そういったことがあると、お世話が大変になりますし、皮膚病や床ずれなどの原因にもなりかねません。

高齢になってきた場合には、以下のようなトイレ対策を取っておくといいでしょう。

  • トイレの段差を減らしたり、近くにトイレを設置する
  • 散歩の回数を増やす(我慢できる時間が短くなっている場合)
  • トイレに連れて行く(尿や便が溜まっているという自覚が少ない場合)

散歩

身体能力が落ちてくると、若いころと同じような散歩をすると負担がかかります。気を付けたいのは

  • 散歩の時間:暑い時間、寒い時間をできるだけ避ける
  • 散歩の長さやスピード:無理のない長さやスピードを心掛ける
  • 散歩前のマッサージ(特に冬場)

などです。弱ってきたから散歩に行かないと、余計に足腰が弱くなり、老衰が進むことがあります。

無理のない程度に出来るだけ運動させてあげることが健康に長生きするための秘訣です。

接し方

接し方にも注意が必要です。

急に触らない

目や耳が悪くなっていると、急に触られてびっくりしてしまうことがあります。床をわざと踏み鳴らしながら、近づくことをアピールして触るようにしましょう。

マッサージ

足腰が弱ってくると、関節の動きが悪くなり、血行不良を起こします。そのせいで関節の痛みが出てしまったり、立ち上がりが困難になることがあります。血行不良は床ずれのリスクを増やす原因にもなりえるため、例え寝たきりになってしまっても、手足のマッサージをしてあげることは大切です。

老衰が進んだらどうする?

犬の老衰が進むと

犬が年を重ねて徐々に老衰が進むと、自分でできることがだんだん減ってきます。

トイレの粗相をしてしまったり、階段やちょっとした段差を上ることができなくなることも多いです。

また、後ろ足が弱くなることも多いため、フローリングで滑ったり立ち上がるのが大変になることもあります。

老衰が進んだ犬では、自分でできないことが増えてくるため、飼い主さんがお手伝いしなければならないことが少しずつ出てきます。

ヒトと同じように、犬でも老衰が進んでくると介護が必要になることがあるのですね。

ただし、すべての子が老衰になり介護が必要となるわけではなく、亡くなる間際まで何も手のかからない子もいます。

緩和ケア

上で紹介したような注意点を守り、老犬でも生活しやすい環境を作ってあげることは大切です。

そうすることで、愛犬のQOLを少しでも上げてあげることができます。

そのうえで、加齢に伴う体の変化を補うためにはサプリメントが有効になることがあります。

関節の機能や痛みの改善、認知症の緩和などの効果が期待できるサプリメントもあります。

また、どこかに痛みがあったり、夜なかなか寝てくれない場合には、犬用の痛み止めや睡眠薬を処方してもらって使うこともできます。

何かできることがないかどうかを動物病院で相談してみるようにしましょう。

安楽死

安楽死は安易に進められるものではありませんが、ペットの苦しみを取ってあげるための選択肢の一つではあります。

ただし、単純な老衰で安楽死を選択することはほとんどなく、通常、痛みや苦しみを伴う場合の最終手段になります。

がんなどの強い痛みを伴う病気や、脳神経の異常でけいれんが止まらないなどと言った場合に、その苦しみを取ったりするためには安楽死は必ずしも悪いということはありません。

安楽死の基準はガイドラインはなく、飼い主さんと獣医師の相談によって、安楽死を行うべきかどうかを判断していきます。

まずはできることを動物病院で相談し、それでもどうしてもつらいという場合には、動物病院で苦しみを取ってもらうようにしましょう。

動物病院の方針によっても違いますが、どの病院でも安楽死を前提とした診察はしておりませんので、しっかり相談してもらうことが大切です。

まとめ

犬の平均寿命が伸びるとともに、犬の高齢化も急速に進んでいます。

いつまでも可愛く若く見える犬も、人に比べて老化が早く、どんどん年を取っていきます。

この記事を参考に、高齢になり老衰が始まった時に、何ができるのかをもう一度考えてみてくださいね。

病気と同じく、老衰も早期発見早期対策が大切ですよ。

 

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