猫もガンになる?慌てずに対処するために事前に知っておきたい治療や知識【獣医師が解説】

最近は、純血種の猫も増え、様々な純血種を見かけるようになりました。

猫の人気を反映して、キャットカフェの人気も高まり、猫を身近に感じるようになりましたよね。

猫を飼う方の意識が高まって、また猫医療も発達して、ひと昔前とは異なって猫も長生きするようになりました。

それに伴い見かける病気の種類も変わってきています。

猫も私たち人と同じように、生活習慣病や慢性疾患、腫瘍性疾患などの疾患に罹患することが増えています。

そして、それらの疾患も治療することができるようにもなってきました。

今回は猫でも珍しくない腫瘍性疾患についてです。身近な病気になりつつも、診断や治療には専門的な知識や施設が必要です。

もし愛猫ががんを患った時に参考にしていただき、慌てずに対処するお手伝いができればと思います。

 

猫のがんとはどんな病気か

がんとは

がんとは悪性腫瘍のことです。

腫瘍は無秩序に増殖する細胞の集団で、悪いものでなければ良性腫瘍、悪いものであれば悪性腫瘍(がん)となります。

そして、悪性のものは組織の種類により種類分けをします。

皮膚や粘膜、乳腺などから発生する上皮性のものは癌、筋肉や骨、神経などから発生するものを上皮性でない(非上皮性)ものは肉腫と呼ばれます。

上皮性の例です。

  • アポクリン腺腫(良性) ⇔ アポクリン腺癌(悪性)
  • 乳腺腺腫(良性) ⇔ 乳腺癌(悪性)
  • 扁平上皮癌(悪性)
  • 移行上皮癌(悪性)など

非上皮性の例です。

  • 線維腫(良性) ⇔ 線維肉腫(悪性)
  • 骨肉腫(悪性)
  • リンパ腫、肥満細胞腫

など

腫瘍は全身の組織にできる可能性があり、猫でも良性、悪性さまざまな腫瘍性疾患の発生があります。

猫は全身を被毛で覆われているため、皮膚の腫瘍や皮膚の下にできている腫瘍でも発見しづらいものです。

しかし、 皮膚腫瘍、皮下にできる一部の腫瘍は見たり触ったりすることで病変を確認することができますので、たとえ被毛で覆われていても、少し注意をしてあげることで早期発見が可能です。

一方で、体腔内にできた腫瘍ではなかなか簡単に発見できるものではありません。

定期的に健康診断を受けさせている方もおられるとは思いますが、それでもやはり症状が出る前に発見をすることは難しいものです。

悪性の腫瘍では、進行も速く、再発や転移をすることが多いです。

しかし、腫瘍の種類によっては、何年もかけて大きくなるものや、転移をせず原発部位だけで広がっていくものもあります。

また逆に、良性でも、どんどん大きくなるもの、再発を繰り返すものもあります。

大切なことは、何か異変を感じたら、動物病院へ行き、適切な検査を行い、正確な診断をつけることです。

腫瘍には種類により様々な性格があります。その性格により、治療方法は異なり、オーナーさまと話し合って治療方針を決定します。

癌の原因

猫の場合、白血病やリンパ腫の発生には猫白血病ウイルス(FeLV)の感染が関与していることが分かっています。

頭部の皮膚に発生する扁平上皮癌では紫外線が原因として示唆されており、毛色が白色、薄い色の猫での発生が多いと言われています。

線維肉腫の一部はワクチン接種との関連性が示唆されており、ワクチン誘発性線維肉腫とも言われることがあります。

また、動物でも喫煙が発がんと関連しており、家庭内で喫煙者がいる場合にはがんの発症率が高いとの報告があります。

しかし、それ以外では原因ははっきりとはしておらず、何らかの遺伝子変異、遺伝子障害が原因としては示唆されます。

 

猫に多いがん

それでは、猫によく見られる腫瘍について主なものをご紹介したいと思います。

乳癌

犬ではその大部分が良性に分類される乳腺の腫瘍ですが、猫では90%以上の確率で悪性です。

高齢の雌猫に発生が多く、稀に雄猫でも発生がみられます。乳腺は皮下に存在する組織なので、腫瘍ができても比較的気付きやすいと言えます。

腫瘍ができると、しこりとして触知することが可能です。乳頭から分泌物が分泌されることもあり、その場合には被毛が汚れてしまうこともあります。

また、転移も起こしやすいです。特に肺には高率に転移を起こして咳や胸水、呼吸困難の原因になります。

毛足の長い種類の猫ではしこりに気付きにくいですが、お手入れやブラッシングの際など、日頃から気にするようにしていただくとよいですね。

また、犬と同様に避妊手術を早期にする事で発生を抑えられるというデータもあります。

子供を残す予定がない場合には、できれば2歳くらいまでには避妊手術を検討するとよいですね。

しこりの場所や症状から乳癌であることの仮診断は行えますが、確定診断には病変を切除して病理検査が必要になるため、手術で切除し専門の検査センターで検査を行います。

手術では病変を含めた片側の乳腺を取り除く方法が用いられることが多いです。

乳がんに罹患しても特にご自宅で特別な過ごし方があるわけではありません。

しなければならないこと、禁止しないとならないことは特にないので、猫が好きなようにできるだけストレスのかからないよう、自由に過ごさせてあげてください。

しこりが見つかった時には、早めにかかりつけの動物病院を受診するようにしてください。

リンパ腫

白血球の一種のリンパ球が腫瘍化します。猫では猫白血病ウイルス(FeLV)への感染がリンパ腫の発症原因に大きく関わっていると言われています。

そのため、腫瘍の発生年齢には2つの波があり、若齢と高齢で発生が多くみられます。

特に猫白血病ウイルスへの感染がある場合には5歳以下でも発症します。

リンパ球は免疫に関わっている細胞で、体に入ってきた細菌やウイルスとた全身に分布します。

しかし、リンパ節という組織に多く集まりますが、腸、皮膚、脾臓などにもリンパ球の集まる部位があり、腫瘍化すると腫瘤ができたり、腫れたりします。

腫瘍ができる部位により、病型が分かれ、消化器型リンパ腫、縦隔型リンパ腫、鼻腔内リンパ腫、皮膚型リンパ腫などと呼ばれます。

その他、腎臓や神経にも発生があります。猫白血病ウイルスの感染が原因になっている場合には、胸腔内に発生する縦隔型リンパ腫が多く見られます。

腫瘍の発生する部位によって発現する臨床症状も異なります。

消化器型リンパ腫では、比較的高齢の猫にみられ、食欲不振、嘔吐、下痢、体重減少などの消化器症状が出ますが、初期の段階では胃腸炎との区別がつきません。

一般的に行われる胃腸炎の治療に対する反応がないため、血液検査、レントゲン検査、エコー検査などを行い、内視鏡や開腹手術により組織を採取し組織検査を行います。

縦隔型リンパ腫では猫白血病ウイルスに関連していることが多く、比較的若齢の猫で発生が多くみられます。

息が荒い、苦しそうにしている、など呼吸様式の異常に飼い主さんが気づく事で発見されます。

レントゲン検査やCT検査により胸部にある腫瘤を確認し、胸水の貯留がみられれば抜去し細胞診を行います。

鼻腔内リンパ腫では、鼻水や鼻血、呼吸困難などの症状がみられ、ひどくなると腫れによる顔面の変形を起こすこともあります。

レントゲン検査やCT検査による病変の確認と、病変部からの細胞の採取細胞診や組織検査を行います。

リンパ腫では抗がん剤を使用した化学療法を行いますが、治療中には抵抗力が落ちます。

治療がうまくいき、見た目では元気を取り戻していても体はまだ本来の状態を取り戻してはいませんので、ストレスをかけないように静かに過ごさせてあげることが大切です。

扁平上皮癌

口腔内での発生が多いですが、白色や薄い色の被毛の猫では紫外線の影響により、皮膚に発生することがあります。

口腔内扁平上皮癌はお口の中に発生します。痛みを伴うため、食欲が落ち、ヨダレが増えたり、出血がみられることもあります。

食べられないため、痩せてきます。皮膚では、特に顔面、耳や鼻での発生が多くみられます。

初期には赤みを帯びた皮膚炎と区別がつきませんが、次第に潰瘍が形成されます。

扁平上皮癌では痛みを伴いますので、静かに過ごさせてあげてください。

線維肉腫

線維細胞の悪性腫瘍です。一部の線維肉腫は、猫ではワクチン接種に関連してワクチン接種部位に発生することがあり、ワクチン誘発性線維肉腫と呼ばれます。

この場合、ワクチン接種部位にしこりができます。しこりから細胞を採取して細胞検査を行い、疑わしい場合にはCT検査で腫瘍の広がりを検査します。

 

癌の治療の種類

猫における腫瘍の治療は、人や犬と同じ、外科手術、放射線療法、化学療法の三本柱になります。

それぞれについてどういった治療法なのかをご紹介致します。

外科手術

手術により腫瘍を摘出します。主に乳腺腫瘍や腺がんなどといった固形癌で完治を目指す場合に行います。

また、転移を起こしていて完治が難しい場合でも、腫瘍の存在のよって全身状態が悪い場合やその臓器の機能障害が起きている場合には減容積を目的に行うこともあります。

基本的には、切除によってその臓器の機能障害が発現しないか、もしくは発現しても生命維持やQOLの維持に差し支えない場合に適応します。

放射線療法

外科手術では取り除くことのできない頭部や口腔内にできた腫瘍が主な適応になります。

動物では処置に全身麻酔が必要となり、また、放射線療法が可能な専門的な施設も少ないため、まだまだ人のように気軽に行えるものではありません。

化学療法

抗がん剤を用いた治療法です。白血病など血液の癌やリンパ腫が適応となりますが、転移を起こしている固形癌の術後や、術前の減容積のために行うこともあります。

人の医療ではより副作用の少ない分子標的薬が主流になってきていますが、動物でも、分子標的薬を使った治療が研究されつつあります。

「抗がん剤」と聞くと、毛が抜け落ちる、猛烈な吐き気、などのイメージがあると思いますが、副作用については気になったり、心配な方も多いのではないかと思います。

抗がん剤の副作用にも目に見える副作用と見えない副作用があります。

注意が必要なのは、目に見えない副作用です。

まず、抗がん剤でなぜ副作用が出てしまうのか、その理由について抗がん剤というお薬の作用機序に触れながら簡単にご説明をしますね。

一般的に抗がん剤というのは一部の例外の除き、がんに効く特効薬、というわけではないのです。

がん細胞ののもつ「無秩序に増殖する」という特徴を利用し、攻撃されるように作られたお薬です。体内には、がん細胞と同じように毎日のように細胞が増えている組織があります。

それが骨髄です。その他、消化管や毛根なども含まれます。抗がん剤は、増えようとしている細胞の動きをストップしてしまうのです。

そのため、がん細胞と同じような特徴を持ち、分裂がさかんな骨髄、消化管、毛根なども薬の影響を受けてしまい、それが副作用として現れるのです。

目に見える副作用は、毛が抜け落ちてしまったり、食欲が落ちる、血尿や下痢をしてしまう、などです。

猫では毛が抜け落ちてしまうことはほとんどありませんが、ヒゲが抜け落ちてしまうことがあります。

目に見えない副作用は、骨髄に対する副作用です。骨髄は赤血球や白血球、血小板などの血液細胞を作る組織です。

このうち白血球に属する一部の細胞は、体に細菌が入ってきた時に体を張って細菌と闘ってくれます。

つまり、骨髄で常に作られては壊され、作られては壊されているのです。

その細胞が抗がん剤の影響で一時的に作られなくなってしまうため、体が一時的に細菌と戦ってくれる力、つまり免疫力が弱くなってしまうのです。

この状態は血液検査をしないとわかりません。

抗がん剤はお薬の種類によりますが、1週間に一度の投与が一般的です。

これは、前回の抗がん剤の投与から体が回復して次の抗がん剤に耐えられるぎりぎりの期間なのです。

抗腫瘍作用だけを考えれば毎日でも投与をしたいところですが、それには体が耐えられません。

そのため、一定期間休薬して体を回復させるのです。

 

治療が難しい場合には緩和ケアも検討してみませんか

緩和ケアとは

緩和ケアとは積極的な治療を行わず患者さんのQOLの向上を最優先に考えた治療法です。

痛みや不安を和らげるなど、患者さんの苦痛をできる限り取り除いてあげます。

人のがん患者のホスピス入院時の多くみられる主訴(患者さんの訴え)は、痛み、食欲不振、全身倦怠感、腹部不快・膨満感、呼吸困難、吐き気・嘔吐、咳・痰、不眠、便秘、意識障害、 嚥下困難、浮腫、口渇、頭痛、歩行困難などであると言われています。

確かにこれらの症状が一つでもあると苦痛ですよね。

動物たちは話すことができないので、訴えることはできませんが、辛い状態であることを理解してあげ、苦痛を取り除いてあげることも大切です。

どんな処置があるのか?

痛み止め、吐き気止めなどのお薬を投与します。脱水があれば点滴を行います。

特に猫はいろいろな処置をされることを嫌うことも多いものです。

ストレスは状態を悪化しかねませんので、猫の状態をみながら、受け入れてくれるような治療を行います。

早期発見

人でもそうですが、典型的な症状が出ている場合にはかなり病気が進行していることが多いです。

しかし、言葉を話せない猫のがんを早期発見するには他の疾患との鑑別が難しくもあります。

普段と異なる様子が見られたらがんに限らずなんらかの疾患の可能性もあります。

どんな疾患でも早期発見早期治療は完治への近道です。

早期発見するためのチェック項目

元気や食欲

猫は注意深い動物です。どんな病気でも調子を崩すと元気や食欲が無くなりじっとしていることが多くなります。

体重の変化

食べなくなったり、消化管に問題があったりすると痩せてきます。この他、糖尿病や甲状腺の疾患でも体重減少がみられます

吐き気、嘔吐

消化器型リンパ腫、消化器にできる腫瘍では吐き気や嘔吐、食欲不振が初期症状として出る事が多いです。

便の状態

消化器型リンパ腫、消化器にできる腫瘍では下痢や便秘など、初期の段階から便の状態に変化が起きることがあります。

呼吸状態

縦隔型リンパ腫や肺腫瘍では気道の圧迫や胸水貯留が原因で、呼吸困難や咳などの症状が出ます。

体表の状態

皮膚や皮下にできる腫瘍、乳がんや線維肉腫などは触知が可能です。

被毛があると分かりづらい部分もありますが、日頃から愛猫をよく触ってあげ、触れ合いを通してチェックを行ってあげてください。

口の状態

口腔内の腫瘍では痛みを伴うこともあり、よだれが増えます。

口を気にする仕草を見せることもあり、その場合は前足の内側がよだれで汚れます。

口の痛みから食欲が無くなったり、食べたくても食べられない状態になることもあります。

余命や生存率とは

余命や生存率は猫だけに限らず、人の医療でも使用される言葉ですが、定義や意味がはっきり分からない方もおられると思いますので、少し説明を加えておきたいと思います。

余命とは

余命とは、残りの命のことです。例えば、病気が発覚して余命宣告を受けた場合には、発覚時から命が無くなるまでの時間や期間のことを指します。

病気が進行して、治る見込みが乏しい時に告げられることが多いです。

また、よく耳にする平均余命は、ある年齢の人達があとどのくらい生きることができるのか、の期待値で、生命表をもとにして計算されています。

生存率

国立がんセンターによると、ある一定の期間を経過した集団について、その時点で生存している割合のことを指します。

治療の効果を判定する重要で客観的な指標になります。

がんの種類に応じて1年、3年、5年、10年など、データを出しますが、それは動物でも同様です。

根拠のない代替医療に注意

サプリメントや代替医療は医学的な根拠が無い場合が多いものです。

全く効果が無いわけではないかもしれませんが、効果が出ることの方が少ないと言えます。

もし、薬を飲んだり、病院で治療をするよりも効果があるのであれば、そのサプリメントや代替医療はがん治療のメインになっているはずです。

サプリメントや代替医療を行うことでかえって猫を苦しめてしまう可能性もあります。

何かにすがりたい気持ちがあっても、付け込まれないように注意しましょう。

さいごに

猫ではウイルス感染やワクチン接種、紫外線など原因がはっきりとわかるがんもあります。

また、乳腺腫瘍のように、避妊手術によって予防につながるような腫瘍もあります。

原因が分かっていれば対策も立てやすいものですが、そればかりではありません。

猫でも高齢になると腫瘍性疾患は増えますが、治療の選択肢も広がっています。

日頃から愛猫の様子を注意して見ていただき、普段とは異なる様子が見られたり、続く場合には早めに動物病院にかかることが早期発見、早期治療につながります。

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