猫の老衰と向き合う。穏やかな最期を迎えるために【獣医師が解説】

猫たちが私たち人間と暮らすようになって長い年月が経ちます。

ひと昔前とは違い、動物達に対する意識も高まった結果、私たちと動物との関係もずいぶんと変化しています。

使役動物から愛玩動物へとその役割が変遷してきた動物たちですが、私たちと共に暮らすようになったことで寿命も延びて長生きできるようになりました。

読者の方の中にも、家族の一員として猫と暮らしている方もたくさんおられると思います。

猫との距離が近くなり、また長生きするようになったことで以前には知られなかった加齢による変化や病気も見られるようになってきました。

しかし、歳をとってもできれば病気をしないで、穏やかに老衰死を迎えたい、それは自分たちだけでなく、一緒に暮らす猫にも言えることですよね。

老衰死を迎えたとすればそれは上手に飼われ、長生きした証です。今回は猫の老衰について考えていきたいと思います。

 

老衰とは

老衰とは、加齢により心身の機能が衰えること、と定義されています。体の機能が衰えることでさまざまな症状が出ますが、具体的にどのような兆候がみられるのかを挙げていきたいと思います。

眼の症状

視力が低下していきます。猫に白内障は少ないですが、高齢になると白内障になる猫もいます。

視力が低下しても、住みなれた場所であればそれほど不自由はしません。

そのため、できるだけ家具の配置などは変えないようにしてあげてください。

どの程度の視力なのかにもよりますが、模様替えをして部屋の様子が変わると家具にぶつかってしまうなど少し危ないので気をつけてあげてください。

また、目が見えないと怖がるようになり、触った時に怯えて怒ってしまうなどの様子がみられることもありますので注意が必要なことがあります。

触る前に少し大きめの声でこれから触るよ、ということを教えてあげるとよいですね。

耳の症状

聴力が低下していきます。しかし、名前を呼んでも反応しない、という場合がすべて聴覚の低下とも限りません。

動くのが億劫で反応しない、ということもあります。

聴力が落ちてくると自分の鳴き声が聞こえないため、とても大きな声で鳴くことが多いです。

もし、大きな声で鳴き続けるような様子がみられたら聴力の低下も疑ってください。

食欲と体型の変化

食は細くなってきます。老衰死を迎える数日前くらいからは、食べ物や飲み物を口にしなくなります。

また、老衰になると、細胞の増えるスピードが遅くなります。

つまり、腸の細胞が活性化しなくなるのです。そのため、腸の消化吸収機能も衰え、食べたものがうまく吸収できずに痩せてきます。

高齢になればなるほど積極的に食べさせる必要があります。

被毛や爪の変化

猫はグルーミングをして被毛やヒゲのお手入れをします。

また、爪を研いで常に先を尖らせています。しかし、歳を取ると、毛根の細胞が増えるスピードが遅くなり、また爪が伸びるスピードも遅くなります。

猫自身もグルーミングや爪とぎ、爪の手入れを行わなくなりますので、毛ヅヤが低下したり、爪が分厚くなるなどの様子がみられます。

特に猫の爪は研いだり、手入れをして外側の余分な爪を剥がさないとどんどん分厚くなります。

また、伸び続ければ肉球に刺さってしまうこともありますので、爪の様子を見ていただき、研いでいない様子でしたら、爪を切ってあげてください。

体の動きと睡眠時間

歳を取るにつれて動きが緩慢になり、寝ている時間も長くなります。

1日の大半を寝て過ごすようになります。動きが活発ではなくなるため、筋肉も次第に衰えていきます。

高いところに上れなくなるわけではありませんが、好んで上らなくなります。

窓のところに跳び乗って寝ていた愛猫の寝場所が、低い場所を好むようになってきている場合には、加齢によるものかもしれませんね。

口臭

あまり食事や水分を摂取しなくなったり、唾液の分泌が減ってくると口臭が強くなることがあります。

無理に水分を与える必要はありませんが、あまり水分を口にしないようでしたら、口の中に少し水分を含ませてあげると良いでしょう。

 

思い込むのは危険

加齢による老衰は体のいろいろなところに現れ、さまざまな変化をもたらしますが、必ずしも老衰だけからくる症状とはかぎりません。

愛猫の不調を自己判断で老衰だ、と決めずに動物病院への受診をしましょう。

老衰だと思い込んでしまい病気を見逃さないようにしましょう

老衰は、加齢によって身体の機能が衰え、生命の維持ができなくなるという自然現象です。

猫は老化に伴って、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症、腫瘍性疾患などの病気への罹患が増えてきます。

もちろんこの他にも色々な病気があります。

体の不調がみられた場合、動物病院への受診をし、検査をすることでいろいろな病気への罹患を否定して初めて老衰だ、と言えるのです。

老衰だと思い込み、 延ばすことのできる寿命を諦めてしまうことはとても悲しく、残念なことです。

経験を積んだ獣医師でも検査をしないと分からないことは多いものです。

自己判断で老衰だと決めず、動物病院での診察を受けるようにしましょう。

 

老衰が始まる時期について

老衰が始まる時期には個体差がありますし、飼育環境などにも左右されますが、だいたいどのくらいから始まるのか考えたいと思います。

老衰はいつごろから始まるのか?

猫がシニアと呼ばれ始めるのはおよそ8歳を過ぎたくらいです。

そして平均寿命は14歳前後と言われており、15歳を超えると長寿猫、と言われることが多いです。

老衰が始まる時期は個体差によるものも大きいですが、ストレスの影響も受けます。

完全な室内飼育か、室内中心か、一頭での飼育か、多頭飼育か、など飼育環境にも大きく左右されると思います。

このため、何歳から老衰が始まります、という明確な線引きをすることは難しいですが、平均寿命である14歳頃が一つの目安になるかと考えてよいのではないかと思います。

 

老衰を迎えている猫と生活するために工夫できること

高齢となり、老衰を迎えた猫と暮らす上で、少しでも猫が快適に過ごせるよう工夫してあげたいですね。

環境

できる限りストレスは避けてあげてください。

猫は本来、縄張りを重視して単独行動を好む動物です。そのため、老衰を迎えた時期の猫がいるのに新しい猫を迎えるということはあまりお勧めできません。

新しく猫と暮らすということは先住猫にとってストレスですし、ましてや子猫を迎えるのであれば、活動量も異なります。

食事

猫は本来肉食動物で、咀嚼することに消化の重きを置いていません。

奥歯のことを「臼歯」と呼びますが、肉食動物の奥歯は先が尖った山型をしていて、「裂肉歯」と呼ばれます。字の通り、肉を引き裂いて食べるための歯になります。

草食動物の奥歯は消化しにくい植物を噛みつぶすために平たい形をしており、臼歯の「臼」つまり、字の通りの「うす」のはたらきがあります。

猫のお口の中を覗いてみると山型の尖った歯があると思います。

これは噛みつぶすための歯ではないのです。猫はドライフードを与えても飲み込んでしまうことが多いのはこのためです。

しかし、老衰を迎えると食べ方や嚥下が下手になることもありますので、愛猫が食べにくそうにしていたら、ウェットフードや缶詰に変えたり、ドライフードでもふやかしてあげるとよいですね。

また、匂いは食欲を沸かせるための大切な要素になります。

フードを与える前に少し温めてあげ、匂いを立たせると食欲が増すことがありますので、温めてあげるのがベターです。

トイレ

筋力が落ちて来るとトイレに間に合わなくなり粗相することも出てきます。

トイレのトレーは回りの壁が低いものを選んであげるか、ペットシーツに変更するなどバリアフリーに近い環境にしてあげるとよいでしょう。

また、立ち上がることが困難になってきた場合には、ペット用のオムツを利用するのも方法です。

ペット用のオムツを使用する時には、皮膚炎にならないよう、こまめに取り替えてあげてください。

ベッド

猫にはお気に入りの寝る場所がありますよね。

しかしそれは安心でき、快適な場所、高い場所であることが多いものです。

筋力が落ちて来ると高い場所へ上るのも億劫になります。

そのため、できれば温かく、人の出入りが気にならない、安心できるような場所にベッドを設けてあげると良いでしょう。

老衰の兆候に気づくためにできること

老衰は自然現象で、身体の機能が徐々に衰えていくものです。

身体のどの部分が強く衰えるのかによりその兆候も違ってきます。

しかし、やはり病気が原因かどうかを鑑別することは必要です。愛猫の普段の様子をよく観察し、いつもと違う様子が見られるようになったら老衰の兆候かもしれません。

健康診断

できれば8歳を過ぎたら最低でも1年に1回は定期的に健康診断を受けることをお勧めします。

体重が維持できているか、心臓の機能はどうか、内臓に負担がかかっていないか、などは動物病院へ行き検査をしないと正確に判断はできません。

動物病院では記録も残せますので、若い時や以前との比較も可能です。

ワクチン接種の際、でもよいですし、飼い主さまによっては、愛猫の誕生日に定期検診をされる方もおられます。

覚えやすい日を決め、健康診断を受けるようにしてあげてください。

食欲

猫でも食欲は健康のバロメーターになります。

催促していたのに反応を示さなくなった、同じ量のフードを与えているのに食べるのに時間がかかるようになってきた、残すようになったなどは食欲が落ちている可能性があります。

食欲の低下を示すのは、もちろん老衰だけではありませんので、もし愛猫のフードの食べ方に変化がみられるような場合には動物病院への受診をしましょう。

臭い

唾液の分泌が減ることで口臭が強くなることがあります。

口臭の原因は、脱水、歯周病や腎不全でもみられます。

便の状態の変化

腸の消化機能が落ちると軟便や下痢になることがあります。

フードやおやつの内容や量の変更をしていないのに便の不調が続く場合には一度動物病院でみてもらいましょう

尿の状態の変化

尿量の増減は飲水量に依存しますが、腎臓の機能や他の疾患の有無を反映するものです。

猫は高齢になると慢性腎臓病に罹患することが多いですが、捉え方によれば慢性腎臓病が老衰の一つとも言えます。

慢性腎臓病は初期の頃から多飲多尿の症状が出ることが知られていますし、糖尿病や甲状腺機能亢進症でもみられます。

飲水量や尿量の増加が一過性のものではないようでしたら動物病院を受診しましょう。

体型の変化

食欲が落ちたり、動きが緩慢になると筋肉も落ち、痩せてきます。特に太腿の筋肉は人と同様に猫でも大きな筋肉のため、筋肉量が落ちると一目瞭然です。

老衰が進むと

愛猫にはできれば苦しまずに旅立って欲しいものですよね。

老衰が進むとどうなるのか、猫に痛みや苦しみが出てくるのだろうか…老衰が進んだ場合、どのような状態になるのか、そして、私たちはどうしてあげたらよいのかについて考えていきます。

老衰が進む

老衰が進むと、さらに食が落ち、動かないようになってきます。

そのため、排泄も少なくなります。病気ではないのに食べられないようになればそれは老衰死が近いことが予想されます。

安らかな老衰死

老衰は加齢による心身の衰えで、加齢により身体の機能が失われていく自然現象です。

痛覚は生きていくために必要な感覚です。老衰では生命を自然に終えるため、痛覚なども衰えていきます。

そのため、人間では痛みや苦しみなどは感じないとされています。それは猫にも当てはまることだと思います。

老衰死を迎える時、愛猫は苦しみや痛みからは解放されているはずですので、全く食べなくなり、動かなくなる様子が見られれば、死期が近づいていると思いますので、ご家族で見守ってあげてください。

安楽死

愛猫が痛みや苦しみを感じているのであれば、それは何らかの疾患が原因になっている可能性もあります。

その場合には、安らかな自然死を迎えることが困難になるかもしれません。

可愛いがっていた猫が苦しんでいる様子、痛がっている様子を見ることは心が痛いことですので、回復の見込みが無い場合には、安楽死という選択もできないわけではありません。

堪え難い苦しみや痛みから解放してあげることは、飼い主さまが愛猫にしてあげられる最期の選択でもあります。

安楽死を選択した場合には、は麻酔薬を用い、苦痛を感じず、穏やかに死を迎える手助けをします。

最後に

猫_素材

可愛い愛猫との別れなど考えたくない…というのが本音ですね。

しかし、老衰という現象は病気でないということが否定されてはじめて言えることなのです。

加齢に伴ったさまざまな病気を見逃すことが無いよう、定期的な検診を受けることが老衰死を迎えるためには必要だということがお分かりいただけましたか?

老衰死を迎える、これは大往生で理想的な生命の終え方です。今回の記事が愛猫が老衰死を迎えられるよう、参考になれば幸いです。

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