犬の妊娠って安全なの?正しい知識を持つことが大切【獣医師が解説】

“戌の日”と言われ、人の安産祈願にもなっているように、犬は他産で安産であると信じられていますが、実際の犬の妊娠や出産について詳しくご存知の無い方も多いと思います。

ひと昔とは異なり、今では犬を飼う人の意識が高まり、子供を残すことを考えていないご家庭では避妊や去勢手術を行って、高齢期になってからの病気の予防や予定のない犬の妊娠をあらかじめ避ける方が多くなっています。

一方で、子供を残したいと思われている方や健康な犬を手術することに抵抗を感じられている方もおられます。

子供を残したい時、また子供は望まないけれど手術はしたくない、そのような場合には正しい知識を持つことが大切です。

今回は犬の妊娠と出産についてです。戌の日の言われのように、犬は安産なのでしょうか?

性周期や妊娠中に気をつけること、周産期についてのお話も含めてお話を進めます。

 

犬の性周期と妊娠

犬の性周期

犬にも人と同じように性周期があり、定期的に排卵をし、妊娠の機会があります。

排卵は個体差がありますが大抵は6ヶ月周期が多いようです。犬によっては8ヶ月ごとであったり、年に1回であったりします。

人と大きく異なる点は、出血の仕組みです。人では排卵をすると着床に備えて子宮壁が厚くなります。

妊娠が成立しなければ厚くなった子宮壁が剥がれ落ち出血し、月経と呼ばれます。一方、犬での出血は発情出血とも呼ばれ、発情中に出血します。

出血が始まってからだいたい12日前後で排卵をしますが、もちろん、発情期に交配の機会があったからと言って必ずしも妊娠するわけではありません。

しかし、着床率が動物の中でも低い人と比べれば圧倒的に高い確率で妊娠が成立することは言うまでもありません。

また、発情中の出血も量は個体差があり、飼い主が気付かないくらい少ない量の場合もありますし、オムツをしないと汚れてしまうくらいの出血がある場合もあります。

人では排卵すると卵胞は黄体になり、着床が成立すれば黄体は持続し妊娠の維持に働きますが、着床しなければ黄体も消退します。

しかし、犬では妊娠の成立の有無にかかわらず、黄体が残り、偽妊娠の状態となります。

犬の偽妊娠

前項でお話した通り、犬には偽妊娠期間が存在します。

これは、犬は昔は群れで生活をしていたことに関係します。

群れの生活は不安定で、母親が出産の際に命を落としてしまったり、栄養不足でうまく母乳が出なかったり、子犬を育てられない状況になることがあったのです。

そのような場合に備えて子犬を群れの雌犬か育てられるようにホルモンバランスが同調し、性周期が揃い、母犬と同じように偽妊娠状態となることで、出産時期を迎えた時に子犬を育てられる体の状態になっているのです。

そのため、どんな雌犬でも必ず偽妊娠期間が存在します。

偽妊娠中は妊娠中と同じホルモンバランスとなるため、食欲にムラが出たり、おっぱいが張ったりします。

また、出産日近くなると巣作り行動がみられたり、お気に入りのぬいぐるみなどを赤ちゃんに見立て、巣に運び入れるようなこともします。

ぬいぐるみを取るようなことをすれば母性から怒って噛み付いてくることもありますが、少しすればおさまりますので噛まれないように注意をして少し見守ってあげてください。

犬の妊娠期間

犬の妊娠期間は、教科書的には63日±7日と幅があり、個体差がありますが、ほとんどの場合が60日を越えたくらいで生まれ、60日を満たないと未熟児であることが多いです。

胎盤の位置や胎子数にもよりますが、兄弟の中での体格の差はあるものの、60日を越えていればどの子も育っている可能性が高いです。

交配は2回程行うことが多いので、交配をした正確な日付を覚えておきましょう。

交配してからおよそ4週間ほどするとエコーにより妊娠か否かの判定が可能です。

犬は偽妊娠をするため、体調や見た目だけでは妊娠の有無はわかりませんので、必ず動物病院へかかり、妊娠しているかどうか検査をしてもらってください。

出産の兆候としては、陣痛が始まる前には体温が下がり、食欲が落ちます。

予定日のおよそ1週間前くらいから体温を計るようにしてください。動物病院では直腸温を計測しますが、人と同じ脇の下でも構いません。

正確な体温ではないですが、ベースとなる体温が必要ですので、決まった場所での検温と体温の把握をてください。

出産前は体温が1度近く下がります。いつもより体温が下がれば12時間以内に出産が始まります。

遺伝性疾患とパートナー選び

犬にも遺伝性疾患があるため、母犬になる犬もそうですが、パートナー選びも慎重に行いたいものです。

現在では、犬でも遺伝子検査が普及しており、親犬の遺伝子を調べて潜在的な遺伝性疾患を持っているかどうかの検査も可能になっています。

人のように出生前診断はできませんが、少なくとも親犬での検査は可能なので、遺伝性疾患が出やすい純血種同士の交配であるのであれば、事前に調べておくのも健康な子犬が生まれる為に必要な選択肢の一つであるということを念頭に置いてください。

動物病院への受診

犬の場合、人のように妊娠検査薬は使いません。

妊娠してから出産までは特に問題が無ければ、エコーによる妊娠診断、そしてレントゲンによる頭数確認、の2度の受診をしていただき、通常はご自宅で出産を迎えます。

交配してからおよそ3週間するとエコーで胎子の有無の確認ができますが、着床時期によって少し時期がずれることもあります。

そのため、交配後およそ4週間、つまり1ヶ月後にエコーで妊娠しているかどうかの確認をする為に受診してください。

人と同じく、検査には適した時期というものがありますので、受診が早すぎても再度検査が必要になる事があります。

また、妊娠が成立していると、ワクチンなどは打てなくなりますし、使うお薬も制限されます。

犬の妊娠診断は見た目や状態だけでは分かりません。自己判断はせず、必ず獣医師による診察を受けてください。

犬の妊娠中に気をつけること

妊娠中だからといって特別に何かしなければならない事、また、逆に禁止しなければならないことはありません。

よく、妊娠中だからといろいろなものをたくさん食べさせてしまう方がおられますが、普段と同じ食事内容で大丈夫です。

妊娠中に体重が増えすぎると脂肪が増えます。

脂肪がつけば産道が狭くなり、難産になる可能性もありますので、むやみやたらに食事量を増やす必要はありません。

栄養要求量が増えるのは産後の授乳期です。授乳するようになってから食事量を増やして摂取カロリー量を増やしましょう。

また、予定日が近づいてきたらシャンプーは控えてください。

シャンプーをした刺激で予定よりも早く出産が始まってしまう可能性があります。

シャンプーをするのであれば、主治医と相談の上、出産をしても赤ちゃんが問題のない日数まで妊娠が進んでいるか、もしくは産後、落ち着いてからの方が安心です。

妊娠できる犬はどれくらいの年齢か?回数はどれくらいがベストか。

発情期が来れば排卵をするため、理論上妊娠は可能ですが、できれば2回目以降の発情での妊娠をお勧めします。

犬は個体差がありますが、8ヶ月くらいで初めて発情することが多いのですが、まだ成長期であることが多く、身体がしっかりと成長してからの妊娠が理想です。

何度か出産をさせたい場合、普通に分娩での出産であれば、次の発情期に妊娠し出産することは可能です。

しかし、帝王切開が必要になった場合には、産仔数の多い犬の子宮には負担がかかり、子宮が破裂してしまう危険があるため、最低でも1年は間を開けるべきです。

出産可能年齢については、発情期があれば妊娠、出産は可能ですが、加齢に伴い難産になる傾向がありますので、犬のことを考えると、5歳以下が推奨されます。

 

犬の出産

出産前の診察

出産予定日のおよそ1週間ほど前にレントゲン検査を行って、胎仔の数と骨盤の広さを確認します。

予定日までの1週間で胎仔はさらに成長をしますが、胎仔の数や骨盤の広さを見ておくことで自力で出産が可能かどうかのおよその判定を行います。

帝王切開の適応

胎仔数や犬種、出産の進行具合により帝王切開が適応となります。帝王切開が必要になる場合はどんな場合なのかをご紹介します。

胎仔数が1〜2匹と少ない場合

犬種や母犬の骨格にもよりますが、予定日までに胎仔が成長しすぎて骨盤を通れなくなる可能性があります。

胎仔の数が多すぎる場合

こちらも犬種や母犬の体格にもよりますが、胎仔数が多いと子宮が大きくなり過ぎてしまい、陣痛が微弱となり難産となる可能性があります。

母犬の骨格が小さく、骨盤が狭い場合

胎仔の数にかかわらず難産が予想され、予定帝王切開を選択することがあります。

自力で出産が困難である犬種

ブルドッグやフレンチブルドッグなどでは頭が大きく、胎仔が母犬の骨盤を通過することが困難であるため、予定帝王切開となります。

また、チワワやマルチーズ、ヨークシャー・テリアなど、超小型犬で骨格が小さい犬の場合にも体力的なことを考えて予定帝王切開を選択することがあります。

難産の場合

どんな犬種でも難産であると診断された場合には帝王切開が適応になります。難産の指標を挙げたいと思います。

 

臨月で何らかの病気の兆候がある場合

何らかの病気の兆候があれば分娩が難しくなります

以前に難産であったという経歴

難産の経歴があり、帝王切開での出産をしたことがある場合には注意が必要です。

  • 体温が低下してから24時間経過しても出産しない
  • 外陰部からの異常な分泌物がある場合

破水して羊水が出ている場合もありますし、胎盤が剥がれて一部が出てきている可能性もあります。

外陰部からの分泌物が多すぎる、色が悪いなどは異常です。

  • いきみ出して12時間経過しても胎仔が出てこない、または胎仔の一部が娩出されたまま10分〜15分経過している
  • 明らかな腹部の収縮があるのに第一子が誕生するする前に3時間以上経過している
  • 出産と出産の間が1時間以上経過している

いきみ出して、腹部の収縮が始まってから12時間以内の出産であれば、母犬、仔犬共に分娩後の状態は良好です。

12時間以上24時間以内の場合には仔犬の生存に関わる予後はあまり良くないとされます。

また24時間以上になると仔犬は死亡し、母犬の死亡率も上がると言われています。

  • 胎仔が残っているのにもかかわらず、陣痛が停止している

胎仔が残っているかの指標となりますので、胎仔数を前もって把握しておくことは極めて重要です。

 

まとめ

“戌の日”の言われはありますが、比較的安産な犬でも、無事に出産を終えることはやはり奇跡であり、出産にはさまざまなリスクを伴うということがお分かりいただけましたか?

可愛い愛犬の仔犬が見たい、と望まれるご家族の方々も、犬の出産が安産であると安心するのではなく、正しい知識を持ち、ホームドクターと二人三脚で妊娠、出産を迎えるようにすることが必要です。

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